韓国第21代大統領に就任した、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏。気になるのは、李氏が従来の強硬な反日姿勢を抑え、対日関係改善を匂わせる発言に転換していることだ。背景には、国際情勢と韓国国内の政治的・社会的事情が複雑に絡み合っている。以下、両観点からその理由を説明したい。
国際情勢において、韓国の安全保障は米国との同盟および日米韓の3カ国協力に大きく依存している。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出が続く中、韓国は単独でこれらの脅威に対抗することが難しい。特に、トランプ米大統領が再就任したことで、米国の対アジア政策が「アメリカ第一主義」の下で変化する可能性が指摘されている。
トランプ政権は同盟国に対し、より積極的な負担と協力を求める傾向があり、韓国が日米韓協力を軽視すれば、米国の信頼を失い、地域での孤立リスクが高まる。李氏はこの地政学的現実を認識し、反日姿勢を続けることが韓国の国益を損なうと判断したのではないか。
また、文在寅(ムン・ジェイン)政権下では親中的な外交も試みられたが、中国の経済的圧力やTHAAD配備を巡る報復措置により、韓国は中国依存のリスクを痛感した。米中対立が先鋭化する現在の国際環境では米国との同盟を優先せざるを得ない。こうした状況のなか、李氏の従来の「親中反日」イメージは、中道層や国際社会からの信頼を損なう恐れがある。そのため日本との協力を強調することで親中イメージを薄め、国際社会での韓国の立場を強化しようとしている。
日本は韓国にとって重要な経済パートナーであり、半導体や先端技術分野での協力が不可欠である。尹錫悦政権下で日韓関係が改善し、シャトル外交や経済協力が再開された流れを、李氏が無視することは難しい。反日姿勢を維持すれば、経済的デメリットや日本との技術協力の停滞を招きかねない。
また李氏としては、中道層や若年層の支持が欠かせない。韓国では特に若者や無党派層の間で、反日や急進左派的な政策に対する拒否感が強まっている。2022年の大統領選で李氏が尹錫悦氏に僅差で敗れた背景には、中道層の支持を獲得できなかった点がある。反日トーンを抑え、「韓米日協力」や「現実的国益」を強調することで、李氏は中道層にアピールし、支持基盤の拡大を図っている。
「李在明=反日」では通らない現状が多々生じているのである。
(北島豊)