50歳から意識したい「長寿県」に共通する食べ物って?

 厚生労働省が2022年12月に発表した「令和2年都道府県別生命表の概況」によると、日本の平均寿命は男性が81.49歳、女性が87.60歳。都道府県別「平均寿命ランキング」では男性1位が滋賀で、長野、奈良、京都と続き女性は1位に岡山がランクイン、以下は滋賀、京都、長野となることから、男女ともに上位にいる滋賀、長野、京都の3県は、日本有数の長寿県と言っても過言ではないだろう。

 1972年に出版され絶版となった今も、医療関係者の間から絶大な支持を受けている著書がある。それが、東北大学名誉教授で医学博士だった近藤正二氏(1893~1977年)が著した「日本の長寿村・短命村」だ。同著は、衛生学を専門とする同博士が、食生活や生活習慣が人間の寿命にどのような影響を与えるかを調べるため、1935年から36年の月日を費やし、北海道から沖縄の八重山諸島に至る990か所を自らリュックを担いで訪ね歩き、研究成果をまとめたものだ。

 当時、日本では脳卒中で亡くなる人の割合が高く、その要因となるのが遺伝や気候、大酒、重労働だと考えられていた。しかし、同氏は各地を訪ね歩くうち、短命村には野菜を多くとる習慣がなく精製された白米や魚の多食傾向がみられること。逆に長寿村では雑穀や緑黄野菜、海藻、大豆などの 「食物繊維」 を豊富に取られていること突き止めた。

 さらに自給自足の生活で「重労働」を余儀なくされている人々のほうが長寿であることが判明。結果、脳卒中の死亡原因は遺伝や気候、大酒、重労働ではなく、「食生活」にあるという結論を導き出したのである。

 いまでこそ同様のことは科学的に証明されているが、時は90年前。むろん、コンピューターなど影も形もない時代だ。そんな中で、すべて人力で聞き取り調査を行い、分析し、結果を導いた同博士には頭が下がるばかりだが、博士が訪ね歩いた長寿村を再訪したのが、腸内細菌の世界的権威である理化学研究所の辨野義己博士だった。同氏は長寿村で暮らす高齢者の便を収集。検査すると、元気なお年寄りの便には「ビフィズス菌」などの善玉菌があふれており、近藤博士の理論が科学で裏付けられることになったのである。

 辨野博士は自著などで、「腸内細菌も老化する(50代が境界線)」としているが、どうしても善玉菌の数は加齢ともに減少する。だからこそ、その境界が50代なので、中年にさしかかったら「腸内環境を整える」食生活に変えるべきだ、と提唱する。

 郷土食と健康に詳しい専門家によれば、滋賀県、長野県には腸を強くする食事があり、たとえば滋賀県では、現在も高齢者を中心に食物繊維を多く含む麦飯を食する食文化が残っており、琵琶湖でとれた伝統発酵食の「鮒ずし」など魚料理のほか、日野菜という伝統野菜を使った漬物も食されている。

 一方の長野県は、発酵食の代表と言われる味噌の全国1地の生産地として知られ、一般家庭では「野沢菜漬け」などのほか、赤カブの葉を乳酸発酵させた「すんき漬け」が普通に食卓に並べられ、野菜の摂取量が多い。結果、どちらの県も古くからの習慣もあり、意識しないままに地域の食文化の中に、発酵食品や野菜、果物といった食物繊維を摂っていたことで、自然と腸内環境が整えられ、それが長寿に結びついていると考えられる。

 ともあれ、50歳を過ぎたら、意識して食物繊維をとり「食事で腸を鍛える」。これが、健康長寿の秘訣であることは間違いないようだ。

(健康ライター・浅野祐一)

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