「中国の構造不況」と「米国の保護主義」で割を食うニッポン/佐藤治彦「儲かる“マネー”駆け込み寺」

 2025年、令和7年が始まった。明けましておめでとうございます。連載3年目の今年も、どうぞよろしくお願いします。

 去年、異常気象で日本どころか世界中も大変だった。特に農家は本当に大変だ。必要な時に限って雨は降らない。一度降り始めると線状降水帯などといって土砂降り。さらに収穫の時期は次々と台風が襲う─。かつての台風はフィリピン沖で発生したら、日本上陸までに何日かの時間があるので対策も立てられた。

 しかし近年は、日本近海でも発生し、高い海水温のために、ドデカく成長した爆雨台風があっという間にやってきては、農作物は壊滅的な被害を受ける。野菜や果物の値段は異様に安い時もあるが、昨秋からほとんどが高騰したままだ。

 そのため、もう少し農作物を育てて出荷したいけど、台風がくるから仕方なく小ぶりなまま出荷するケースもあっただろう。こうして農家の実入りは少なくなる。

 また、海水温も高くなったために、日本近海でとれる魚が激変。かつてはニシン漁の盛んだったところでブリが豊漁になったり、カニの収穫が異様に少なくなったりと、漁業関係者も悪戦苦闘だ。本当にご苦労さまとしか言いようがない。

 異常気象は大地と海で働く人たちの生活に大きな影響を与える。もちろん、物価に悪影響を与えるので消費者も困る。異常気象は今年も続くのだろうから、もう異常な状態が日常になりつつある。

 今年は経済環境の激変も私たちの生活に大きな影響を与えるだろう。今年の日本経済に起きることを象徴するようなことが年末のニュースになった。ホンダと日産の経営統合である。

 人口減少の日本の市場はどんどん小さくなっていく。何しろ今でさえ、1年間に50万人以上もの人口が減っている。これは石破総理のお膝元、鳥取県全体の人口と同じくらいだ。つまり毎年、鳥取県の人口が丸ごと日本から減っている。

 さらに10年ほど先の時代には、もっと多くの人口が減り続けるだろう。そんな中で企業としての体力があるうちに、企業合併して世界の大きな市場を取りにいく。そうした合併、買収などが起きる─そんなことを予感させるものだった。

 それは昨年もあった。国内最大の鉄鋼メーカー・日本製鉄がアメリカのUSスティールの買収を計画し、相手企業、株主、地元自治体も雇用を守るためには歓迎で、順調に進むと思われた。日本製鉄はそれまで海外の大きな拠点であった中国から、欧米に軸足を変える決断をしたのだ。

 21年にコロナの重石から世界中が復活する時、構造的な不況に陥り、低迷を続ける中国が沈んだままで、浮上の糸口が見つかっていない。特に不動産不況に関しては深刻で、昨年は大手不動産会社の破綻が露わになったが、中国政府の対策は小手先の応急措置ばかりで根本的な解決には繋がりそうにもない。消費は低迷し、過剰な生産能力を抱えたまま多くの企業が製品を国内でさばけないので、商品が国外にダンピング価格で流出している─。

 日本製鉄は、そんな中国に置いていた軸足をズラし、アメリカを拠点にヨーロッパも含めて事業展開を強めようとしたのだが、アメリカ大統領選挙と重なって、年末にはバイデン大統領だけでなく、まもなく大統領に返り咲くトランプ氏も反対を表明したのだ。

 日本だけでなく欧州も含めて、今年の経済はトランプ大統領のアメリカ・ファースト主義と構造不況に対処しきれない巨象・中国が2つの重石となりそう。

 私の意見はこうだ。海外から経済の嵐が吹く可能性があるなら、国内経済をもっと強くしてほしい。そのために一番必要なのは内需拡大、強い個人消費の復活である。そのためにも、与野党伯仲の国会には、庶民の懐をホカホカにする賃金アップの経済政策、政治を進めてほしいものだ。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。

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