ついにプーチン大統領の口からも飛び出したトランプ待望論に、各国首脳人もザワついたことだろう。カザフスタンの首都アスタナで行われた上海協力機構(SCO)の年次首脳会議に参加していたロシアのプーチン氏が記者会見で米大統領選に触れ、トランプ氏の「ウクライナ終戦計画」を真摯に受け止めていると発言し大きな話題になったのは、7月4日のことだ。
ロイターやタス通信などによれば、会見でプーチン氏は、先月のテレビ討論会でトランプ氏が「(当選すれば)来年1月の就任前にウクライナ戦争を終わらせる」と発言したことについて、「もちろん彼(トランプ氏)がその達成をどう提案するのかはよく知らない。しかし、この部分(詳細内容)が核心だ。我々は、ウクライナ戦争を中断する準備ができていて、これを望むと宣言した事実を、真摯に受け止めている」と強調。かつて、私的な席では「予測可能なバイデン氏のほうがいい」と発言していたプーチン氏だけに、記者団からは「バイデン氏を好むという考えが変わったということか」との皮肉交じりの質問も飛んだが、「何も変わっていない。どんなことが起きるか知らなかったのか。我々は知っていた」と、予測できるバイデン氏のほうが、予測不可能なトランプ氏より、処しやすいとするこれまでの見解を示した。
とはいえ、プーチン氏がウクライナ側に突き付けている休戦の条件は、ウクライナ軍がロシア占領地から撤収し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を放棄すること。むろん、ウクライナはこれを拒否しているため、仮にトランプ氏が米大統領になっても、休戦に結びつけられるかは未知数だ。さらに、昨年からプーチン氏は北朝鮮の金正恩総書記に急接近し、ウクライナ侵略戦争に用いる武器弾薬の提供も受けており、その関係も大きな懸念材料だ。
ところが、「現在の露朝関係はいわば政略結婚。トランプ氏がウクライナ戦争を終わらせれば露朝が武器をやり取りする理由も消える」と断言する人物がいる。それが、トランプ氏が大統領の在任当時、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)で秘書室長を務めた、フレッド・フライツ氏(現・米国第一政策研究所(AFPI)副所長)だ。
7月8日、韓国紙「中央日報」の取材に答えた同氏は、「政略結婚は長続きしない。トランプ氏がホワイトハウスに復帰すれば露朝を切り離すだろう。なぜなら、露朝が武器をやり取りする理由もウクライナとの戦争にあるからだ」と発言。トランプ氏がどんな形で戦争を終わらせるのかはわからないとしながらも、「少なくとも彼は『ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる』と終戦の意志を見せている。バイデン政権はウクライナに武器だけを提供し、戦争を終わらせる考えがない。今はいくつかの悪いオプションの中から次悪を選ばなければいけない」として、予測不可能なトランプが打って出る一手が休戦に導く可能性も十分あり得る、と述べている。
さらにプーチン氏は、露朝と中国との関係にも触れ、「中国は北朝鮮という格下相手が他国と直接取引するのを見たくない。そのため、(米国が)北朝鮮と直接対話し、北朝鮮が異なる道を模索するよう促せば、3国間の連帯を妨害することができるだろう」と分析している。トランプ氏が大統領に返り咲いたとき、その予測不可能な作戦は、はたして吉と出るのか、凶と出るのか…。神のみぞ知るといったところか。
(灯倫太郎)