日中関係で不穏な空気が漂う中、中国が四国の南方、沖ノ鳥島の北方に位置し、日本の排他的経済水域に囲まれる四国海盆の海域にブイを設置したことが分かった。この海域は公海だが、海底資源の開発などを行う権利が認められる日本の大陸棚である。日本政府はこれについてお得意の“遺憾砲”を中国に示したが、中国政府はブイは津波観測用で、日本の大陸棚に有する主体的権利を侵害するものではないと反発。しかし、昨年7月にも中国の海洋調査船が尖閣諸島周辺の日本の排他的経済水域にブイを設置したことが確認されており、今後の行方が懸念される。
専門家の間では、ブイの設置は単なる序章にすぎず、今後中国は四国海盆周辺での海洋調査だけでなく、軍事演習などを積極的に押し進め、いずれは小笠原諸島周辺で軍事的な影響力を確保することが懸念されている。
2014年9月から10月にかけ、小笠原諸島の父島や母島の近海では中国船によるサンゴの違法密漁が明らかになり、多い日には1日で数百隻の中国漁船が密漁を行う姿が確認された。この海域で獲れるサンゴは高値で取引されることから、当時は経済的目的と判断された。
だが、中国の海洋軍事戦略に着目すると、今後はサンゴ密漁ではなく中国海軍がこの海域で活動を活発化させる可能性が高い。海洋進出を進める中国は、九州から沖縄、台湾に至る第一列島線の内部を中国の海と化し、伊豆諸島からサイパン・グアム、パプアニューギニアに至る第二列島線まで軍事的な影響力を拡大する狙いがある。そして、小笠原諸島はその第二列島線上にあるのだ。沖縄や台湾周辺の安全保障環境と比べ、小笠原諸島周辺の安全保障環境は“米軍がいない軍事的な空白地域”であり、中国にとっても環境が悪くない。
今後、中国は小笠原諸島の確保において、大量の海上民兵を投入してくるだろう。中国漁船の乗組員に武装訓練を行い海上民兵として育成、漁船も武装化させるなどして、その後、小笠原海域に出港させるというシナリオだ。そのような武装漁船が大量に現れれば、現地の民間漁船は安心して漁業ができなくなるが、中国は武装漁船から中国海警局、中国海軍という順序で小笠原海域において軍事的な圧力を強めてくるだろう。“小笠原の尖閣化”も決してフィクションではない。
(北島豊)