ロシア侵攻でウクライナが劣勢に立たされる中、米国では総額608億ドル、日本円で9兆4000億ドルにのぼるウクライナへの追加支援を可能にする予算が成立した。バイデン大統領はただちに10億ドル分の緊急支援を行うと表明。対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」、防空弾や装甲車などがすぐ送られるという。
ゼレンスキー大統領はこの日をどんなに待っていたことだろうか。米国からの軍事支援が滞り、「米国からの支援がなくなるとウクライナは戦争に負ける」と何回も嘆いていた。ロシアも軍事予算の増額を図り、プーチン大統領が15万人の追加動員を可能にする大統領令に署名したことで、今後いっそう攻勢をエスカレートさせることは間違いないからだ。
ただ専門家の間では、ウクライナが米国から軍事支援を受けたとしても、それによってロシア軍をウクライナ領土から追いやるには至らないとの見方が大筋だ。今日でもロシアは兵士や軍備品を積極的にウクライナ領内に送り込んでいる。そのため米国からの支援のみで全領土を奪還することは難しく、いかにして攻勢を食い止め現状を維持できるかといった具合だ。
そして、今後懸念されるのがトランプ再選だ。ウクライナへの追加支援では608億ドルが割り当てられたわけだが、これを今後いつどう使うかは米国次第。バイデン政権が続けばさらに4年間は軍事支援を受けられるだろうが、トランプ再選となれば追加支援が滞る可能性がある。トランプ氏はウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる、最優先でウクライナ支援を停止するなどと言及している。それだけにトランプ政権となればバイデン政権が費やした支援額以上のことはせず、お金を費やすより停戦を優先し、現状で妥協しろと強制的な停戦案をゼレンスキー大統領に持ち掛ける恐れがあろう。
ウクライナへの追加支援予算が成立したことは良いのだが、戦況の行方はやはり、秋の大統領選の行方が大きなカギを握るだろう。
(北島豊)