国際的な車の祭典「ジャパンモビリティショー」の開催を6日後に控えた10月20日、世界の自動車産業に衝撃が走った。中国が電気自動車(EV)の主要材料であるグラファイト(黒鉛)の輸出を規制すると発表したからだ。
EV用電池はリチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなどを原材料としており、そのいずれを欠いても電池が作れない。世界の自動車メーカーはEVで生き残るために上記のレアメタルを確保し、自前でリチウムイオン電池を生産する体制の構築にしのぎを削ってきた。
ところが多くの自動車メーカーは、リチウムイオン電池の性能を左右する「負極材」の材料として不可欠なグラファイトを中国に依存してきた。グラファイトの世界生産の65%を中国が占めているばかりか、リチウムイオン電池向け負極材市場の80%を中国が握っている。
つまり、中国に負けじとEV開発を進める欧州や日本、韓国らの自動車生産国は、じつは中国の手のひらの上でリチウムイオン電池開発競争を展開してきたわけだ。
しかし、中国は12月1日から輸出規制を実施する。商務省はグラファイト製品について輸出許可を義務付けた。これにより調達が滞れば、リチウムイオン電池の生産に影響を与えるばかりか、世界のEV生産をも左右することは確かだ。
ここにきて、中国はなぜ世界のEV生産に打撃を加えるような輸出規制を打ち出したのか。EUが安価な中国製EVに不当な補助金が支出されていないかを疑い調査を始めたことへの対抗措置との説もある。だが、ハッキリしていることは、これは習近平中国が世界に仕掛けた新たな「戦争」だということである。
中国はいま、不動産バブルの破綻だけでなく、経済も内政もうまく行っていない。そこで国民の不満をそらし、中国経済を復活させるために、雇用を拡大できる産業が欲しいのだ。
その戦略の一つが世界のEV競争に勝ち残ることで、自動車産業の雇用を現在の1000万人から5000万人以上に拡大できると考えている。その鍵となるのがグラファイトというわけだ。
重要鉱物は世界5大陸に埋蔵されている。だが問題は、その加工の工程が中国に集中していることだ。レアアース生産量の約7割を占めている。
この状況をIAE(国際エネルギー機関)は、「資源の供給と貿易ルートを多様化できなければ世界に重大なリスクが生じることになる」と警告を発していた。図らずも、それが現実になった。
改めて、中国は資本主義的「利益」は度外視する共産党国家であることを気づかせた。
(団勇人・ジャーナリスト)