29歳の頃。日中友好協会で副会長を務める方にご紹介していただき、中国・天津へと向かった僕。当初は怪しい白タクやら初めて泊まる高級ホテルに足がすくんでしまいましたが、なんとか目的地である天津の国際デパートに到着する事ができました。
それまでいろんな国に旅行はしていましたが、中国は初めて。というのも、僕は中国語が話せない。それと、お肉が食べられないので肉料理が多い中国はあまり気が乗らなかったんです。
でも、今回はお世話になった方からのご紹介。しっかり仕事を拡大して期待に応えよう！ と、意気揚々とデパートに入りました。そこは中国でも唯一、外国と貿易を結んでいた国際デパートで、従業員も何百人と働いています。広々としたフロアには外国製の炊飯器や掃除機、洋服などが陳列されていました。
でも、どうも僕にはどの商品も面白みに欠けて見えたんです。もっと面白い商品はないかなぁと漢方薬コーナーに足を運んでみたら、あるわあるわ。面白そうな商品がザックザクでございます。特に目を引いたのが女性の胸がド〜ンと描かれたパッケージ。僕には日本語の通訳が付いていましたので、すぐに聞いてみました。すると通訳が店員に聞いて「これはバストを大きくするクリームですよ」と教えてくれました。
ほかにも塗るだけで痩せるというクリームや髪の毛が黒々とフサフサになるという『101』という育毛剤、目の下のたるみを取るクリームなど、何種類かの商品を見つけた僕はすぐにこれを個人輸入しようと思いついたんです。
日本に戻った僕はすぐに折込みチラシを作り始めました。「中国4000年の歴史」「個人輸入」「中国の一流デパートからあなたのご自宅にお届けします」というキャッチコピーを付けて原稿を自分で書いて約3万部。当時、うちの会社には従業員は20人ぐらいいましたが、通販という事業自体、やった事がなかったので電話受付の対応も初めて。従業員が帰宅した夜間はもちろん僕が電話番です。
これはいまでも忘れられない事なんですが、初日のいちばん最初に僕がいただいた電話っていうのが、女性からでした。ご希望の商品はバストを大きくするクリームでございました。1個1万円なんですが、そのお客様は2個欲しいという事でした。お代はどうするかというと、お客様のお名前と住所、電話番号を教えいただいて、直接、中国のデパートから商品を送ってもらい、届いたらうちのほうから請求書をお送りするという流れだったんです。
ところが、2個ご購入された方に請求書を送ってもお金が振り込まれない。従業員が電話連絡を入れましたところ「今はお金がないから払えない」というお返事でした。それで僕、従業員にこう言ったんです。「いちばん最初のお客様だし、嬉しいからあげると言って下さい」って。通販事業で初めて商品を注文して下さったお客様です。その嬉しさといったら言葉では表せません。
バストを大きくするクリーム2個はプレゼントしました。その時の記憶は今でも鮮明に覚えています。
石田重廣（いしだ・しげひろ）株式会社夢グループ、株式会社ユーコー代表取締役社長。1958年7月1日生まれ、福島県出身。自ら出演する「夢グループ」のテレビショッピングで大人気。昨年、保科有里とのデュエット曲「夢と…未来へ」で歌手デビュー。今年8月30日に第2弾シングル「やすくして♡」を発売。ネット上でも話題に。
