ルフィ事件「掛け子」が明かしたフィリピン監禁生活「パスポートも取られ…」

 フィリピンを拠点に特殊詐欺および広域強盗を指示していたとして、渡辺優樹容疑者ら日本人4人が逮捕された。「掛け子」の証言から浮かび上がった闇バイトの実態とは? お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が「ルフィ事件」の裁判をリポートする。

 フィリピンを拠点にして、リーダーが「ルフィ」と名乗る特殊詐欺グループが逮捕されたのは今年2月。相当な数の関係者が逮捕されましたが、あれから7ヶ月経って東京地裁では特殊詐欺グループの一員の裁判がスタートしました。個人的には初めてこの事件の裁判を傍聴しましたが、これから次々と始まって幹部の被告人であれば報道されることもあるでしょう。

 被告人は、無職の男性(24)。起訴されたのは2つ。

 1件目は、被告人が31人と共謀して、2019年11月13日に渋谷区の被害男性(65)に電話を掛けて「銀行口座が不正に残高照会されているので財務局の職員がキャッシュカードの手続きで自宅を伺います」と伝えて、共犯者がキャッシュカード5枚を受け取り、そのカードでATMから合計で350万円を引き出したという内容。

 2件目は、被告人が31人と共謀して、足立区の被害男性(76)に1件目と同様の電話を掛けて共犯者がキャッシュカード2枚を受け取り、ATMで63万円を引き出したという内容。被告人は2件とも罪を認めていました。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学卒業後にアパレル関係の仕事をしていたそうです。前科はなく、今回が初めての裁判になります。被告人は2019年5月にフィリピンのホテル客室内を拠点とする特殊詐欺グループに参加。グループは3つのチームに分かれて、特殊詐欺の掛け子をやっていたという。チームの中はさらに1セン・2セン・3センと3つの役割分担がされていたという。1センは、名簿を見て電話を掛ける役割。2センは、1センが被害者と電話が繋がった時に引き継いで、財務局の職員を装って電話を掛ける役割。3センは、受け子に指示を出す役割。

 報酬は、電話を掛けた人、財務局を名乗った人、カードを受け取ってATMで金を下ろした人が騙し取ったお金の5%を貰えるシステムで、残りのお金は、他の人がフィリピンに来る渡航費やホテルの宿泊費、食費などに使われていたという。

 そして被告人質問。まずは弁護人から。

弁護人「そもそもこの詐欺グループに関わるきっかけは何ですか?」

被告人「SNSで高額バイトを調べていて、海外に行ってブランドの代行輸入をする募集を見つけて。連絡をすると電話で話しましょうと。それで、日本で購入したブランド品をフィリピンで転売する仕事だと説明されました。アパレルの仕事をしていたので経験が活かされるかなと」

 特殊詐欺の募集は、詳細は明かさずに犯行直前に内容を告げられるというパターンが多いのですが、被告人の場合はブランド品の転売という募集だったそうです。

弁護人「で、ブランド品の代金はどうしましたか?」

被告人「借金をして、エルメスなど100万円分を購入しました」

弁護人「で、それを持ってフィリピン。向こうに着いてからの行動は?」

被告人「空港で男性2人と会いまして、荷物を預けて車に乗って移動しました。マニラ市内のビジネスホテルに着いたんですが、パスポートもスマホも荷物を取られているのでどこにも動けませんでした」

弁護人「そのホテルの部屋で1週間滞在していたという話でしたね。1週間、何をしてました?」

被告人「支給されたスマホ1台で生活してまして、コンビニに行こうとしたら『勝手に出るな』と連絡があったので監視されてるんだなと」

 ブランド品の転売の仕事は無く、いきなり1週間の監禁生活です。被告人としては騙されてフィリピンに渡航したと言いたいようです。完全なウソで特殊詐欺グループのメンバーを集めていたようですね。

弁護人「詐欺だとわかったのはいつですか?」

被告人「フィリピンについて1週間後に、ボス(ルフィ)と会って、電話を掛けるマニュアルを渡された時です」

弁護人「断ろうとは?」

被告人「話が違うと伝えたんですが、『来たんだからやってもらう』『逃げてもムダだから』と」

 パスポートも取り上げられてるので逃げられない被告人。怖い人たちに言葉巧みにフィリピンに誘導され、詐欺をやるしかない状況だったということでしょう。

弁護人「どんなことをやるんですか?」

被告人「リストを見て電話を掛けます」

弁護人「リストって?」

被告人「住所や名前が書いてあるリストです」

弁護人「マニュアルっていうのは何が書いてあるんですか?」

被告人「筋書きが書いてあって、相手の質問にすぐ答えられるようにQ&Aも書いてありました。グループが3つあったので、リーダーごとに言い回しなどが違っていたので3種類のマニュアルがありました」

弁護人「役割とかはあるんですか?」

被告人「グループの中で3つに分かれていました。1センがリストを見て1軒1軒電話を掛ける役。2センは1センが騙した人に財務局職員として電話をする役。3センが受け子や出し子に指示をする役です」

 人数が多いだけあって、システマチックに特殊詐欺が行われていたようです。その後、恐るべき「恐怖支配」の実態が明らかになります。(※後編に続く)

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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