中国が米アラスカ州上空などで「気象用」と称するスパイ気球を浮遊させ、米軍機の追撃を受けたのは昨年1月のことだ。中国政府は再三にわたり米政府による「スパイ気球」である疑惑を否定。さらに、今年5月には米ニューヨークで中国系米国人2人がFBIに逮捕され、彼らが中国政府が在外の中国人や華僑の活動を監視する「秘密警察」だったことが判明。中国が海外に展開する秘密警察が53カ国、102カ所に達していることも明らかになり、国際的な大問題に発展したことは記憶に新しい。
そんな中、7月に勃発したのが、フィリピンの元女性市長に対する“中国人スパイなりすまし”疑惑だった。国際問題に詳しいジャーナリストの話。
「この女性は首都マニラ近郊にあるルソン島のバンバン市長を務めていたアリス・グォという人物。当局がバンバン市のオンラインカジノ施設を摘発した際、グォ氏と中国の犯罪組織との関わりが浮上。ところが、彼女は再三にわたる議会の要請を無視し公聴会への出頭も拒否。結果、8月には逮捕命令が出され市長職も解かれていたのですが、その後行方知れで、東南アジアの国々を転々としながら逃亡生活を送っているという情報もありました」
当局の発表によると、同氏は出生や経歴に不明な点が多く、別の中国人女性と指紋が一致したことから、中国のスパイとしてフィリピンに潜入。別人に成りすまし知事に就任していた疑いもあるとして、マルコス大統領自らが捜査を指揮する異例の事態に発展していた。
当局は極秘裏にフィリピンを出国してた元市長が、シンガポール経由でインドネシアに入ったとの情報を入手。フィリピン司法省は9月4日、元バンバン市長”グォ容疑者”を逃亡先のインドネシアで拘束したと発表し、謎に包まれたこの「中国人スパイ事件」がいよいよ全容解明に動き出すことになったようだが、そんな最中、米ニューヨーク・タイムズをはじめとした全米メディアが3日、ニューヨーク州知事前秘書の中国スパイ容疑での逮捕劇を大々的に報じ、全米に衝撃が走った。
報道によれば、連邦捜査局(FBI)によりロングアイルランドの自宅で逮捕されたのは、キャシー・ホークル・ニューヨーク州知事の前秘書室次長であるリンダ・サン氏と夫の2人。
「起訴状によると、サン氏の逮捕容疑はビザ詐欺をはじめ、マネーロンダリングなど10件。サン氏は州知事の中国関連業務に関与していたため、州知事と州主指導者の台湾政府関係者との会合を中止させたり、あるいは蔡英文前台湾総統が訪米する際も、台湾側の要請を州知事にあえて伝達しないなど、中国の立場を反映する多数の不正工作をしていたことが当局の調査で判明しているようです。起訴内容が事実であれば、完全に中国側のスパイだったと考えて間違いないでしょうね」(同)
なお、夫はニューヨークでリカーショップを運営しているとされるが、報道によれば事業実態は不明。それにもかからわず、セレブが住むロングアイルランドの360万ドル(約5億2200万円)の邸宅で暮らし、愛車はフェラーリ。ハワイ・ホノルルにはコンドミニアムも所有するなど、おおよそ州政府の事務方とは思えない優雅な生活を送っていたことも明らかになっている。今回の逮捕劇を受け、米司法省は米国内で活動する中国人スパイによる諜報活動調査をより一層強化するとの方針を打ち出しているが、フィリピンに次ぐニューヨークでのスパイ事件発覚で、対中国スパイに対する各国の目はさらに厳しさを増すことだろう。
(灯倫太郎)