渡辺優樹、小島智信の両容疑者らフィリピンで暗躍していた詐欺グループの幹部4人が強制送還・逮捕されたのは今年2月。日本を震撼させた広域強盗事件、被害総額60億円と言われる特殊詐欺はどのように行われたのか。フィリピンで「掛け子」として詐欺に関わった実行役が、裁判で語った「恐怖支配」とは? お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。
9月、東京地裁では特殊詐欺グループの一員の裁判がスタートしました。被告人は無職の男性(24)。滞在先のフィリピンから、共犯者31人と共謀して、渋谷区の被害男性(60代)と足立区の被害男性(70代)に電話を掛けて、それぞれ350万円と63万円を引き出させたという内容。騙されてフィリピンに渡航し、監禁状態で犯罪を強要されていたようです。
弁護人「フィリピンに行ったのはいつですか?」
被告人「2019年5月30日です」
弁護人「その後、あなたは3度日本に帰ってきてますよね?」
なんと監禁生活から抜け出して日本に戻ってきていたのです!そのスキに警察に駆け込めばいいのでは?という疑問が浮かびますが、そう簡単にはいかなかった理由が語られました。
弁護人「最初に帰ったのはいつ?」
被告人「2019年8月です」
弁護人「その時の荷物は?」
被告人「支給されたスマホとパスポートです」
自分の荷物は取り上げられたまま、ほぼ手ぶらでの日本帰国です。
弁護人「何のために日本に?」
被告人「ブランド品を買ってこい、と」
弁護人「逃げようとは思いませんでしたか?」
被告人「実家にいたんですが、幹部の人から『今、外に出てみろ』と電話がありまして、家の外を見ると人が立ってたので監視されてるんだなと」
弁護人「親には何か言いましたか?」
被告人「フィリピンでアパレルの仕事をしていると」
弁護人「警察に行こうとは思いませんでしたか?」
被告人「警察に言ったら、親兄弟に危害を加えると言われていたので」
弁護人「危害を加えるとかあるんですか?」
被告人「実際にあるかは分かりませんが、耳を切り落とす動画は見せられました」
元々が犯罪行為をやる集団なので、何もかもがマトモじゃないんです。被告人としても日本には戻ってきたけど、詐欺グループに監視されていたので警察には行けなかったと。かなりの恐怖支配があったのではないかと推測されます。
弁護人「振り返って、どうすれば良かったと思いますか?」
被告人「SNSでバイトを探さなければよかったです」
弁護人「フィリピンにいる時、逃げれなかったですか?」
被告人「逃げたけど大使館の手前で詐欺グループに捕まって、手錠しながら仕事してる人がいたり、その人が拳銃突きつけられてるのを見てたので」
弁護人「被害者のうち1人とは示談が済んでますね。誰のお金ですか?」
被告人「家族が出してくれました」
弁護人「たくさんいる共犯者の中でね、示談をしているのはあなただけ。何故示談しようと思ったんですか?」
被告人「申し訳ないという気持ちがあったからです」
被害者から奪ったお金は詐欺グループが受け取っているけど、被告人の親が被害者に支払っているということですね。この事件で金銭的に一番損してるのは被告人の親ではないかと言いたくもなりますが、反省しているとアピールして弁護人からの質問は終了です。
続いて検察官からの質問です。
検察官「フィリピンに行く前の話ですけど、報酬は何って書いてました?」
被告人「高収入、と」
検察官「他に書いてたのは?」
被告人「海外で仕事をする、と」
検察官「ふーん…」
募集内容に特殊詐欺をやるとは書いてはいないものの、かなり怪しい募集に連絡をしていたんだと検察官としては主張です。
検察官「フィリピン行く前の指示ってどんな内容でしたか?」
被告人「写真が届いて、エルメスなどを買ってきてと」
検察官「その時、日本で組織の人と会いましたか?」
被告人「はい。4年前なので正確には忘れましたが渋谷だったか新宿だったか、会って輸入代行の話をしました」
検察官「いくら貰える仕事だと?」
被告人「月40~50万円です」
一応、直接会っての面接みたいなものはあったようです。
検察官「さっき言ってた1セン2セン3センですけど、どうやって決めるんですか?」
被告人「特にないです。ボスが全部出来ないとダメだと言ってたので。1センが出来るようになると2センを覚えて、上達すると3センも」
検察官「あなたはどれを?」
被告人「1~3まで全てのポジションをやってました」
検察官「あなたは逮捕当初、黙秘をして話をするのを避けてましたね?何故ですか?」
被告人「それは弁護士と相談して黙秘でと。裁判で全て話そうと」
逮捕時の報道よりも、この法廷での話の方が詳しい実態が知れたということになります。
最後は裁判官から。
裁判官「フィリピンにいる時ね、怖くて逃げられなかったという話でしたけど、逃げようとは思ってたんですか?」
被告人「毎日やめたいと思ってました。でも逃げられないのでモヤモヤしていました」
裁判官「他の人とやめたいって話はしてたんですか?」
被告人「何度もしています。勇気振り絞って逃げれば良かったなと後悔しています」
と述べて被告人質問は全て終了。みんな騙されてフィリピンに集められていたのか、ボスがいないところでは被告人だけでなくみんなで愚痴をこぼしていたようです。被告人としては、SNSで仕事探したのが間違い、逃げなかったのが悔やまれるという話でした。
確かに「エルメス自腹で買ってきて」「フィリピンで転売するから」ってそもそもいかがわしい話だよなぁと。そんな募集をSNSで見つけたとして、普通の感覚ではなかなか連絡出来ないですよね。
次回11月9日に論告弁論が行われます。ここから共犯者の裁判も増えていく中、「ルフィ」の裁判しかニュースにならないかも知れませんが、“元部下”の裁判の方が実態が見えてきそうです。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。