「NATO拡大OK」でプーチンを切り捨て!トルコ・エルドアン大統領のゴネ得「一石三鳥」

 昨年5月、北欧のフィンランドとスウェーデンによる、NATO加盟申請の申し入れの際、両国がテロ組織である「クルド労働者党」を支援しているとして、強硬な反対姿勢を示していたトルコのエルドアン大統領。その後、フィンランドについてはテロ問題で改善が図られたとして容認、正式加盟を認めたものの、スウェーデンに対しては、ストックホルムでの聖典コーラン焼失事件を引き合いに出し、変わらぬ反対姿勢を取り続けてきた。

 NATO加盟には、現存31カ国すべての賛成が必要。ゆえに「スウェーデンのNATO加盟はほぼ絶望的」との見方が強かった。ところが今月10日、トルコが急転直下、加盟容認に転じたことで欧米諸国に衝撃が走った。

「結局、スウェーデンがトルコ側の要求を飲む形でクルド人勢力の身柄引き渡しに同意。テロ対策法まで成立させ、テロ組織を支援する者に対して厳しい罰則を科すよう決めたことが大きかった。さらに、トルコ市民の欧州連合(EU)への入国許可や、EUとトルコの貿易障壁撤廃の働き掛けにも同意させるなど、トルコはスウェーデンに対してこれ以上ないほどの譲歩を引き出しています。スウェーデンとしては、そこまでしてもNATOに加盟したかったということでしょうが、結果的にエルドアン氏のゴネ得となり、まさに『転んでもただでは起きない』と言われる同氏の本領が発揮されたことになります」(全国紙国際部記者)

 しかも11日、エルドアン氏はバイデン米大統領と会談。この席で、トルコがスウェーデンの加盟を認めることで、F16戦闘機のトルコへの供与をバイデン氏に同意させたとの報道もあった。

「つまりエルドアン氏は米国、スウェーデン両国から大きな譲歩を引き出し、トルコの存在感を十分に示しただけでなく、スウェーデンを巧みに利用することで最大の懸案だったEU加盟への道を開いたことです。というのも、トルコは80年代からEU入りを熱望しており、99年には加盟候補国となり、その後交渉が始まりました。ところが16年にクーデター未遂が勃発、事件後にエルドアン政権による反体制派への弾圧が激化したことで、加盟交渉がストップ。その後まったく再開の目途は立っていないのが現状です。つまり、エルドアン氏としては今回のスウェーデン問題をきっかけに、なんとかもう一度EU加盟交渉のテーブルにつきたい。そんな思惑が見え隠れしています」(同)

 気が気でないのがエルドアン氏から「友人」と呼ばれるロシアのプーチン大統領だ。エルドアン氏はロシアのウクライナ侵攻について批判はしてきたものの、西側の対露制裁には加わらず、経済でも友好的な関係を続けてきた。ところが、突如としてトルコがウクライナのNATO加盟を支持する立場を表明。さらには、ウクライナの精鋭部隊「アゾフ大隊」の元司令官ら5人をトルコからウクライナに帰国させたのである。

 この「裏切り」とも思えるエルドアン氏の行為にプーチン氏は激怒したとされるが、経済的にトルコに大きく依存するロシアとしては、強硬な手段を取れず、歯がゆい思いをしていることは間違いない。プーチン氏にとってトルコは味方なのか敵なのか…。エルドアン氏の全方位外交の行方が気になるばかりだ。
 
(灯倫太郎)

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