ロシアがウクライナ東・南部4州の併合を強行したことを受け、先月30日、北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を表明したウクライナのゼレンスキー大統領。
今回の侵略戦争について、ロシアがウクライナとNATOの接近を口実のひとつにしていたこともあり、ゼレンスキー大統領はこれまでは加盟方針には慎重な姿勢を取ってきた。だが、今回の一方的な4州併合で方針を転換。NATOへ加盟することで、何があってもロシアには屈しないという毅然とした姿勢を示した。
とはいえ、ウクライナのNATO入りはほぼ不可能と言えそうだ。NATOのストルテンベルグ事務総長は「欧州の全ての民主国家は加盟の権利を持っており、扉は開かれたままだ」としながらも、新規加盟には「加盟30カ国全ての同意を得る必要がある」と、ハードルの高さを示唆。米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)も、「別の機会に検討されるべきだ」との認識を示し、慎重な姿勢を崩していない。
「ロシアのウクライナ侵攻により、欧州全体の安全保障環境が変わりました。長年、中立の立場をとってきたフィンランドとスウェーデンが方向転換し、NATOへの加盟申請をおこないました。ただし、両国と違いウクライナは戦争当事国。NATOには加盟国への攻撃に全加盟国で応じる集団防衛原則があるため、ウクライナが加盟すると他すべての加盟国が巻き込まれ、ロシアとNATOの全面戦争に発展する可能性がある。NATOが慎重な立場をとる最大の理由です」(軍事ジャーナリスト)
とりわけドイツやフランスは、ロシアをこれ以上刺激したくないと、加盟国拡大には後ろ向き。プーチン大統領と近いエルドアン大統領率いるトルコも、同意する可能性は低いとされる。
そして加盟が困難な理由の2つ目が、ウクライナの国内事情だという。
「NATOに加盟するためには、民主主義、市場経済、法の支配といった基本理念を満たしているというのが条件となります。ただしウクライナでは、新興財閥(オリガルヒ)が政治に強大な影響力をもっており、汚職体質も依然残ったままだといわれます。NATOには軍事同盟という側面がある一方、政治制度や経済の仕組みの価値観を共有できるかも大事な要素。そこがクリアできなければ、申請しても加盟するまでにかなりの時間を要することになります」(同)
核使用をチラつかせるロシアに立ち向かうウクライナにとって、NATO加盟は最大の安全保障である。だが、ストルテンベルグ事務総長は「NATOは紛争の当事国ではない」とあらためて一歩引いた立場を示した。そんなNATOの足元を見透かすように、ロシアのメドベージェフ前大統領は、ウクライナのNATO加盟について「第3次世界大戦の開始を早めることになる」とSNSに投稿した。
なんとも歯がゆい状況だ。
(灯倫太郎)