「プーチンはすでに負けている」
アメリカのバイデン大統領がまるで勝利宣言のような言葉を放ったは13日。NATO首脳会議の後に訪問したフィンランドで行われた記者会見でのことだ
「バイデン大統領が気をよくするのも分かります。昨年2月のロシアのウクライナ侵攻で脅威を感じたフィンランドとスウェーデンが5月にNATOへの加盟を申請。ところがトルコのエルドアン大統領が同国でテロ指定している『クルド労働者党』を両国が支援しているとして加盟に反対していました。その後、フィンランドは状況が改善されたとして容認したものの、スウェーデンに関しては最後まで頑なに拒否。加盟には全会一致が必要なため暗礁に乗り上げていました。それが7月11、12日のNATO首脳会議で急きょ賛成に転じ、NATO事務総長が言う『歴史的な一歩』を踏み出すことに成功。これを主導したバイデン大統領としては大きなレガシーを残すことができ、ロシアのプーチン大統領に強烈なカウンターパンチを食らわすことになりましたからね」(全国紙記者)
そもそもロシアがウクライナに侵攻したのは、プーチン大統領がどんな建前論を言おうが、国境を接するウクライナがNATOへ加盟するのを危惧して、強引にでも緩衝地帯を築きたかったことは明らかだ。
ところが暴挙に転じたことによって、長く中立の立場を保っていたフィンランドとスウェーデンが加盟申請するに至り、かえってNATOの拡大を許してしまった。両国とも知られざる軍事強国で、フィンランドに至ってはロシアと1300キロも国境を接している。プーチン氏にしてみれば、本末転倒どころか完全に自らの首を絞めてしまった格好だ。
これで得をしたのは、当たり前だがまずはフィンランドとスウェーデン。そして西側リーダーのバイデン大統領。それから陰の主役であるトルコのエルドアン大統領だ。
「トルコはこれと交換条件に、アメリカからF16戦闘機の供与を取り付けました。さらにはトルコが80年代から切望しているEU加盟も持ち出しましたが、こちらはエルドアン大統領の反対派を弾圧する非民主的政治の問題から当面実現することはないでしょう。ただし、道筋をつけることにはなるかもしれません」(同)
一方のロシアは、プリゴジン氏の反乱でプーチン大統領の求心力が失われているところに、友好国のはずだったトルコに国際舞台で堂々と“裏切られた”たことで、プーチン離れの印象をより色濃くしている。
ただ目立つのは、エルドアン氏の二枚舌ぶりだ。これまでも、西と東の接点という地政学的利点を生かしてどっちつかずの立場をとり、現実的なメリットを得るというバランス外交に長けている。言ってみれば利に聡く、今後プーチン氏が落ち目になったら、完全に捨て去る可能性もある。
「戦争終結」と言いながら、外交の場では実際の戦禍もどこ吹く風のポジション争いをしているわけだ。
(猫間滋)