はたして、中国・習近平国家主席のウクライナ電撃訪問は実現するのかーー。
3月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領がAP通信の単独インタビューに応じ、「我々はここで彼(習近平)と会う準備ができている。私は彼と対話がしたい。(ロシアによる侵攻前に)彼と接触したことがあるが、1年以上実現できずにいる」と、ウクライナへ習氏を招待する意思があることを明らかにした。
「このインタビューは28日、ロシア国境に近い戦闘の最前線を訪問したゼレンスキー氏が、キーウに戻る列車の中で行われたもの。実はゼレンスキー氏は、これまでにも何度か習氏をウクライナに招待する意思を示していたものの、実現には至りませんでした。今回なぜ、このタイミングで習氏にキーウ訪問を求めたのかはわかりませんが、おそらくは20日にモスクワを訪れた習氏が、停戦を持ち掛けつつ、ロシアに対し武器支援を公式には約束しなかったこと。さらには習氏の帰国後、プーチン氏が同盟国ベラルーシに戦術核兵器配備の方針を示したことが関係していることは間違いないでしょう」(国際ジャーナリスト)
というのも、中国とウクライナの間には、2013年に締結された「中国ウクライナ友好協力条約」があるため、ウクライナが核攻撃を受けた場合、中国はなんとしてもロシアの核使用を阻止しなければならないという立場にあるからだ。
「この条約は当時のウクライナ大統領・ヤヌコビッチ氏が、中国に国賓として招かれ、同年12月5日に北京で行われた習氏との首脳会談後、共同声明で発表されたものです。その第二項には、《中国は国連安保理984号決議と1994年12月4日に中国政府がウクライナに提供した安全保障の声明にのっとり、非核保有国のウクライナに対して核兵器の使用または核兵器を使った威嚇をしないことを無条件で約束する。またウクライナが核兵器の使用による侵略、あるいはこの種の侵略という脅威にさらされた場合、ウクライナに相応の安全保障を提供する》という文言があり、簡単に言えば、中国はウクライナが核攻撃を受けた場合、中国はウクライナ側に立ち、攻撃してくる相手国と戦うというもの。もちろん、この条約は国と国の約束ですから、習氏自身の署名があるもので、破棄しない限りは有効です」(同)
つまり、今回のゼレンスキー氏による“習氏招待発言”の裏には、この「中国ウクライナ友好協力条約」を再確認する意味がある、という見方もできるわけだ。
「ただし厄介なのは、中国はウクライナと友好協力条約を結ぶ一方、ロシアとの間でも『中露善隣友好協力条約』という友好条約を結んでおり、こちらは、2001年7月にモスクワで当時の江沢民国家主席とプーチン氏が締結したもので、条約の有効期間は20年間。途中でどちらか一方が取り消しの意思を伝えなければ、5年ごとに自動延長され、2021年には締結20周年を祝って習氏とプーチン氏が共同声明を出し、さらに延長されています。ただ現在の状況は、ロシアが一方的にウクライナ国内に軍事侵攻しているわけで、当然ウクライナとの友好条約が優先されるはず。とはいえロシアと中国は切っても切れない関係ですからね。ゼレンスキー大統領としては、両国の関係に念を押すためにも、習主席と会談しておきたいと考えているのかもしれません」(同)
この3国の場合、はたして友好条約にどの程度効果があるのか疑問はあるものの、和平の道が開けることを願いたい。
(灯倫太郎)