習近平に突如飛び出した「引退説」フェイクでは片付けられない“政変の匂い”

 西側諸国とロシア・中国の対立が目立ち、「民主主義VS専制主義」といった言葉がよく聞かれるようになった。その専制主義の一翼・ロシアは、ウクライナ侵攻の「戦果」が上がらず、“進むも地獄退くも地獄”の膠着状態に陥って先が見えない。また一方の専制主義国家である中国も、この間の様々な世の中の変化に対する方策を巡って、一枚岩ではなさそうな情報が洩れ伝わってくる。

「中国の人民日報は5月16日に、中国共産党が元指導者ら前線から引退した党員に対し、党の規律や規則を遵守するよう求めた文章を公表したことを伝えました。普通なら何でこのタイミングに?という話ですが、このタイミングだからこそこの文章を出した意図が勘繰られ、果ては習近平国家主席の『退陣説』まで持ち上がっています」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 事は5月5日まで遡る。この日、中国国外から中国についての情報発信を行っていることで有名な「老灯」というユーチューバーが、北京で起きている「政変」のことに触れた。いわく、ゼロコロナ政策やロシアのウクライナ侵攻でとった習近平の対応のマズさが江沢民や胡錦涛(5、6代国家主席)ら長老の我慢の限界に達したことから、5月2日に開かれた中国共産党政治局の会議で、秋に開催される第20回の党大会の場で引退するよう迫り、現在、首相を務める李克強に総書記の座をゆずることで合意が得られたのだという。

 もちろん真偽などは確認のしようがなく、老灯自身も半信半疑のテイだが、確かにさる情報筋からもたらされた話だとしている。可能性としては、真実、ホラ話、意図的な情報発信のいずれかの可能性があるが、どちらにしてもこういった話が持ち上がること自体、政治の奥の院で何か起きつつあるとも考えられる。ホラだとしてもありうる面白い見立ての1つで、そこへきての冒頭のような、長老牽制の文章がまとめられたというのだから、あながちあり得ない話でもない、となる。そこで、習近平と長老の対立構図が真実性を増し、「退陣論」も信憑性を帯びるに至ったというわけだ。

 では、このところの中国国内の政治状況を見ればどうか。やはり「政変」の匂いがする。

「4月20日の全人代では、湖北省のトップを全人代の役員に据える異動人事がありました。この人は武漢のコロナ抑え込みで力を発揮した人物で習近平派の忠臣でしたが、今度の役職は実権のない上がりポストに過ぎない名誉職で、事実上の政界引退です。また昨年12月には新疆ウイグル自治区のトップも突然に交代しましたが、こちらも習近平派の人物でした。一方、李克強の部下が相次いで地方のトップに就任して、中国共産党における出世コースで着実に地歩を固めつつある状況です」(同)

 言うまでもなく、ゼロコロナ政策は中国のあらゆる経済指標を押し下げて、年間5.5%の経済成長の目標が危ぶまれている。さらには、毛沢東と鄧小平と並び立つ存在として習近平が今後取り組む、格差なき中国社会の実現という大目標の「共同富裕」さえ、このごろは見直しを余儀なくされている。

 権威は力を持ちすぎると民心から離れ、呆れられる。ロシア共々、意外に没落は早いか

(猫間滋)

ライフ