「中期防衛力整備計画」で5年間で総額43兆円の防衛費増強を明記した政府は、米国から500発の「トマホーク」を購入することになるという。
しかし、防衛研究所防衛政策研究室長・高橋杉雄氏はその内訳についてこう説明する。
「この『防衛力整備計画』には10年後の自衛隊がどういう兵力構成を目指すかが記されている。もちろん防衛費が倍増するわけですから、普通なら自衛隊の規模が大きくなるはずです。しかし実際には戦闘機やイージス艦が多少増える程度。予算ベースで見ると、『反撃能力』に使われる費用は1割程度しかない。それでは何に使われるかといえば、4割程度が、弾薬など継戦能力、つまり、今ある自衛隊の機能をフルに使いこなすために使われるのです」
その上で、改めて東アジアで覇権を広げる中国の脅威に対して、対抗手段を打ち出すのだ。
「現状、中国の海空戦力はざっくり米国の7割です。ただし、米軍は世界に兵力を展開しているため東アジア地区にあるのはせいぜい5割程度となる。つまり、事実上中国7:米国5という不均衡になってしまう。そこで日本が残る2を埋めることができれば、7:7となるわけです。戦争は勝てると思った時に始まります。プーチン大統領も3日で制圧できると踏んだからウクライナに攻め込んだわけです。中国に勝てないと思わせることができれば、戦争は防げますし、それが抑止力になるのです」(高橋氏)
昨年12月、岸田文雄総理(65)は防衛費をGDP比2%と倍増する方針を打ち出した。また、その財源として国債を発行せず「将来世代への責任」として増税で賄う方針を打ち出したのだ。
この「1兆円増税」に対し、軍事ジャーナリスト・井上和彦氏は批判の声を高める。
「岸田総理は、なぜ防衛費の増額が必要なのかという説明をしないまま、いきなり増税する方針を打ち出してしまった。本来、日本はこういう状況で、今の防衛予算では賄いきれないときちんと説明すべきだった。このままでは日本の国防に必要な防衛費が悪者になってしまう。本末転倒もいいところだ」
1月23日からの通常国会では、岸田総理の丁寧な説明が求められることになるだろう。
最後に、高橋氏が台湾有事の可能性についてこう説明する。
「何割の確率で起こるとは言えません。しかし、強大な軍事力により自信を増した中国が『勝てる』と判断する度合いは以前よりも確実に増しているのです」
数日で終結すると思われたロシアのウクライナ侵略はまもなく1年を迎える。一度始まったら止められず長期化するのが現代の戦争なのだ。強固な日米安保で導入される「反撃能力」が抑止力として効果を発揮することを願うばかりだ。
*週刊アサヒ芸能1月26日号掲載