ゆるゆる「歩き旅」のススメ!(3)神宮球場の“隣”でハマの番長と対戦

 紅葉の便りが届く時期になった。都内で紅葉の名所といえば、明治神宮外苑のイチョウ並木を思い浮かべる人も多いだろう。近年は再開発による既存樹木の伐採をめぐり、衆目を集めている。

 イチョウ並木は保全される方向だが、秩父宮ラグビー場や明治神宮野球場は今後、建て替えられる。今の風景を目に焼きつけようと、ゆるゆる歩きに出た。

 まずは東京メトロ外苑前駅から地上に上がり、スタジアム通りを秩父宮ラグビー場へ。戦後、米軍の駐車場になっていた焼け跡に建設されたラグビー専用競技場で、建設費の着手金は関東ラグビー協会の理事や各大学OBの寄付で捻出された。スポーツをこよなく愛された秩父宮殿下が雨でぬかるんだ工事現場を訪問され、作業員を励まされた逸話はよく知られている。

 この日は試合がなくゲート前からの見学だったが、正面階段の中央にヘッドギアを被り、ラグビーボールを持って颯爽と立つ主将像が見てとれた。

 新国立競技場を正面に見ながらスタジアム通りを進むと、明治神宮野球場が見えてくる。東京ヤクルトスワローズの本拠地であり、高校・大学の野球大会も数多く開かれている。

 正面入口に立つと、駆け出しの頃を思い出す。上司は筋金入りの虎党(阪神タイガースファン)だが、懐は寂しく、そうそう球場観戦はできなかった。そこで、ラジオ実況を聴きながら仕事を続け、7回過ぎに勝利を確信すると「行くか!」と仲間を募り、明治神宮野球場へ向かう。

 目的は勝利の喜びを虎党と分かち合うため。虎党たちは勝利すると阪神タイガースの歌(通称・六甲おろし)を歌い、万歳三唱する。上司は場外から漏れ聞こえる歌声に合わせて歌い、万歳すると「さあ、仕事しよう」と会社に戻るのだ。広辞苑をまるごと頭の中に詰めたような博識の上司がみせる稚気が愛らしく、毎回一緒に足を運んだものだ。

 球場を回り込むと草野球の聖地である軟式グラウンドがあり、その向かいにバッティングセンターがあった。プロ野球の投手やアニメキャラクターとの対戦気分が味わえるらしい。

 対戦相手は現役時代のハマの番長・三浦大輔。球速は中速にして、バッターボックスに立つ。ブン、ブン、ブン。気持ちいいほど当たらない。今日のところは勘弁してやるぜ‥‥。負け惜しみを呟きつつ先に進んだ。

(次回へ続く)

内田晃(うちだ・あきら)自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。

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