都内屈指の紅葉スポット明治神宮外苑のゆるゆる歩きは、秩父宮ラグビー場、明治神宮野球場を経て、聖徳記念絵画館に来た。
ドーム屋根に三連アーチの開口部を持つ中央部から東西に羽を伸ばすシンメトリーの建物は1926年に完成。外壁には岡山県産の花崗岩が使われ、華美さはなく、どっしりとした重厚な印象を受ける。
館内には明治天皇・昭憲皇太后の事績を描いた80枚の日本画、洋画が展示されている。その中には、最後の将軍・徳川慶喜が家臣に大事を告げる「大政奉還」、明治政府の西郷隆盛と旧幕臣の勝海舟が対峙する「江戸開城談判」など、歴史の教科書で見た作品もあった。
鑑賞後、軟式グラウンドを右側に見ながら円周道路を進むとイチョウ並木に出る。樹高は最高28メートル。美しい円錐の樹形で、300㍍の直線道路を挟んで歩道に二列ずつ並んでいる。西側には、秩父宮ラグビー場東門に続くイチョウ並木もあり、両方のイチョウを合わせると146本もある。
実は、これらのイチョウは新宿御苑の在来木を親とする、いわば兄弟・姉妹だ。1908年、後に明治神宮外苑造園の主任技師を務める折下吉延博士が、宮内省南豊島御料地(現在の明治神宮内)で種子の発芽に成功。順調に育った1600本から良木を選抜し、1923年に植栽した。
例年11月下旬には鮮やかな黄葉が見られ、歩道は黄金色のトンネルとなる。訪問日は最盛期まで少し早かったが、地面のあちこちにギンナンが転がり、あの特有の香りが漂っていた。
全部、拾い集めて酒肴にしたいところだが、今日は我慢。ここから外国の賓客をもてなす迎賓館赤坂離宮まで、ひと足伸ばしたいからだ。円周道路を絵画館方面へ戻り、権田原交差点を四谷方面へ。安鎮坂を下り、鮫河橋坂を上ると西門の見学受付に着く。見学は本館+庭園と庭園のみが選べた。
本館は1909年に東宮御所(皇太子の居所)として建設され、日本唯一となるネオ・バロック様式の西洋風宮殿建築になっている。庭園は2つで、本館の南側に国宝の噴水がある主庭と北側に約25万個の花崗岩を敷き詰めた前庭がある。
庭園をぶらり歩くだけでも外国に来た気分。前庭では屋外でアフタヌーンティーを楽しむカップルもいた。人の恋路を邪魔するのは野暮の極み。そそくさと2人の視界から姿を消した。
内田晃(うちだ・あきら)自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。