「異常気象」と「不動産バブル」が中国共産党を崩壊させるのか

 この1年、中国を取り巻く環境は大きく様変わりした。
 
 新型コロナウイルスが世界的流行になると、世界に先駆けてワクチンを開発。国境を閉鎖させながらも、貧困国にはワクチンを輸出し、西側による国際秩序を打破せんと、ワクチンを利用した戦狼外交を重ねた。
 
 だがいまや、途上国から中国に対する不信が広がっている。それはワクチンの有効性の問題だけではない。中国経済の実力に対する信用が失われつつあるからだ。
 
 実際、中国経済のGDPの3割を占める不動産は行き詰まり、バブル崩壊の懸念が高まっている。おそらく今後数年間、中国経済は塗炭の苦しみを味わうことになるだろう。
 
 そんな経済的危機状況にある中国を、今度は「異常気象」という新たな危機が襲った。
 
 この夏、中国は観測史上最悪の熱波に見舞われた。正確な記録が残る1961年以降では「最も暑い」猛暑が連日続いた。被害が大きいのが長江(揚子江)流域で、水量は下がり、一部では川底が露呈するほど渇水した。この異常事態に中国共産党は、中国近代史で最大の災害となった1931年の長江決壊がよぎり、危機感を強めている。
 
 1931年に発生した「中国大洪水」とは、同年7〜11月にかけて中国の3大大河の黄河、長江、淮河流域で洪水が起こり、死者14万5000人(欧米の調査は400万人)を出した大災害だ。疫病と飢饉を除けば20世紀最悪の自然災害であり、そして見過ごしてならないのは、この災害がきっかけとなって「中華民国」が崩壊し、中華人民共和国が誕生したことだ。
 
 長江と淮河の洪水は、当時の中国の首都・南京市に到達したと記録にある。南京市は壊滅的な被害を受け、水死のほかコレラやチフスといった感染症でも多数の命が奪われ、国内は大混乱。これが中華民国崩壊の原因の一つと言われている。
 
 もともと中国は黄河より北の華北地方は水が少なく、黄河や長江から運河を造成して水を引くことが歴代王朝の重大政策だった。
 
 ところが、今年の異常渇水は世界一豊かな水量を誇った長江沿いの大都市である成都、重慶、武漢、南京などの水力発電にとどめを刺し、上海名物のネオンに輝く夜景を暗闇に変えるほど中国全土の電力供給を不安定にさせた。
 
 中ソが冷戦に陥った時、毛沢東はソ連邦の攻撃から産業を守るために重要産業を四川省などの内陸部に移転したため、長江沿いの重慶、武漢、南京などは、今も自動車とその関連部品や先端産業が集積する中国有数の工業地帯である。ところが、いずれも電力供給の8割以上を水力に頼っているため、この熱波と少雨の影響は甚大だった。発電量は過去最低となり、当局は8月の大半を停電にし、工場を操業停止するよう指導した。

 多くの製造業が生産停止に追い込まれたため、中国経済に大打撃を与えるのは確実だ。

 さらに深刻なのが農業である。長江、淮河沿いに何百本とある支流が干上がったため、農作物に甚大な被害をもたらしている。農業が打撃を受ければ、アメリカの環境活動家レスター・ブラウンが1994年に世界の食糧危機を予測した「誰が中国を養うのか?」という警鐘が現実味を持って迫ってくる。
 
 習近平国家主席は、食糧安保が中国の恒久的課題であることをかねてより唱えていた。異常気象が中国共産党を危機に追い込んでいる。

(団勇人・ジャーナリスト)

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