バルト3国のエストニアとラトビアが、中国との経済的な協力枠組みからの離脱することを正式に発表したのは今月11日のこと。
「枠組み」とは、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に関し、経済的に協力していくとして2012年に始まったものだ。
「この枠組みには、かつて中・東欧の17カ国が参加していましたが、リトアニアが昨年5月に離脱を宣言。今回、エストニアとラトビアが離脱するとなれば、バルト三国全てが不在となり、『一帯一路』にとって大ブレーキになることは間違いない。もとより中国に批判的だったスロバキアなどもこれに続くと見られており、目論見はより厳しい状況になることが予想されます」(全国紙記者)
今回の離脱について、ラトビアの外務省は「現在の外交、通商政策の優先順位を考慮して決定した」とコメント。エストニアの外務省も、「中国とは今後、国際ルールに基づく秩序と人権を尊重した協力を通じ、建設的で実利的な関係を築く努力を続ける」との声明を出しているものの、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる中国の対応に不信感を募らせていることは間違いない。
「旧ソ連に併合されていたエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国は、91年に再独立を果たしますが、それまでもロシアの帝国主義に苦しめられ続けてきたという歴史があります。そんなロシアによるウクライナ侵攻を糾弾しないどころか逆に擁護し、さらにNATOに責任転嫁するような中国政府の姿勢は、どう考えても受け入れ難い。今回の離脱発表を前に、エストニアとラトビアの首脳は今年2月の『枠組み』会議もボイコットしていますし、リトアニア議会では5月に、中国によるウイグル族への弾圧を『ジェノサイド(民族大量虐殺)』と認定。中国の強権的な政治体制に批判的な立場をとってきており、今回の離脱は時間の問題だったとも言えます」(同)
そこで注目されるのが、日本が進める「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」や、一帯一路に対抗して日本を含むG7が発足させた新枠組「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」の動向だ。
「昨年7月に茂木敏充外相(当時)が、日本の外相として初めてエストニアとラトビアを訪問していますが、むろんこれは両国が一帯一路を離脱するという情報を得ていたからでしょう。茂木氏はリストニアのリーメッツ外相との会談後、オンラインの共同記者発表で『同志国が結束し、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を維持、強化していく重要性について一致した』と述べています。事前にポーランドやボスニア・ヘルツェゴビナなど、中・東欧6カ国にも歴訪しており、外相と協議。その後に両国を訪ねています。これらの国々をPGII側に抱きこみ、中国の影響力を弱めたい。今回の枠組み離脱は、EUや日米諸国にとって大きなメリットとなるはず」(同)
道路や港湾、鉄道網の整備など大風呂敷を広げたものの、なかなか予定通り進まないといわれる中国の「一帯一路」構想。今回のバルト三国の離脱が及ぼす影響やいかに。
(灯倫太郎)