元警視庁SPが沈黙を破った!(3)トラブル議員の弾除けにもなる

 失言および不正行為をした市長や町長を各県警の警護官が警護をするケースもあり、それが都内であればすなわちSPの出動となるわけだが、この制度にはH氏も異論を唱える。

「産廃施設処理場建設や昭和天皇の戦争責任発言などで問題を起こした議員でも、私たちが体を張って守らなければいけないんです。そりゃ、納得いきませんよ。そうした信条の異なる人のために〝弾除け〟になるなんて、親が聞いたら堪えられないと思います。この仕事を生業にしてきた自分としてはそんなことを言ってはいけないと思いますが、納得がいかないことってたびたびあるんです」

 溢れ出る感情は、緊迫した現場で任務を務め上げてきた実感から来るのだろう。

 SPたるもの、高度な逮捕術や格闘術を磨き上げ、不審者をすぐさま発見するための視線も常に光らせる必要がある。相当な精神力と体力が求められるのだ。さらには、運転のテクニックやチームワークの遵守、自制心、法令遵守、自己管理能力、国内外からのVIPを迎える礼儀作法までもが要求されるという。

「何者かが襲いかかってきた時に犯人が持つ凶器や拳銃の行方を追い、そこに体を張って体当たりすることも必要です。自分の命を張って、盾となる覚悟があるかもSPになるための大切な要素ですね。私の同僚はまさに盾になって、負傷しました。日々任務に就いていますが、自己犠牲と人間性が問われるので、かなりのストレスがかかります。だから、本当に選ばれし者だけが任命されるんです」

 それほど適性や素質を問われる仕事に携わり、H氏は過剰すぎるストレスに押し潰される前に警察を退職した。

 上司からの推薦により、SP専用施設で特殊訓練を受け、それを勝ち抜いて就いた任務だっただけに、本人にとって苦渋の決断だったという。

 現在のH氏は自営で軽トラックを転がし、コロナ禍で急増したアマゾンの荷物を届ける日々だ。

 平和な一般社会に身を投じるようになった今、安倍元総理の暗殺事件が勃発したのである。

 H氏は強く訴える。

「銃規制が徹底した日本でもこのような事件が起きたんです。浅沼稲次郎暗殺事件のような刺殺ではなく、政治家が銃撃される時代になったんです。改造銃だけではなく、部品をバラバラにして日本国内に持ち込み、組み立てて販売する業者もいると聞きました。今後このような事件が頻発するような世の中にはなってほしくないですね」

 長く続いた日本の安全神話は崩れ始めているのだろうか。だからこそSPの存在は心強いのだが、その活躍が聞こえてくるほどに、言い知れぬ恐怖を覚えるのもまた事実だ‥‥。

〈フリーライター・丸野裕行〉

*「週刊アサヒ芸能」8月11日号掲載

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