習近平政権が掲げる「ゼロコロナ」政策。その柱として当局が5月下旬に打ち出したのが、大都市や地方の中核都市に「徒歩15分圏内」で検査場を常設するという施策だ。
中国では、感染力の強いオミクロン株が流行したことを受け、PCR検査を高頻度で実施する都市が急増。スーパーや飲食店、公共交通機関に入る場合、72時間以内の陰性証明書が求められる都市も多く、PCR検査が常態化しているという。
「中国メディアによれば、5月下旬の時点で北京市や上海市など31都市がこの政策を採用。河南省などではすでに省全体での導入を決めたと伝えています。検査は無料で、翌日にはスマホの専用アプリに陰性証明が表示されるため、クラスターをいち早く発見できるとあって、今後も多くの都市に導入させる方針のようです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
しかし、検査場を増やしPCR検査を常態化すれば、当然のことながらコストも巨額となる。
「中国の証券系シンクタンクの試算によれば、PCR検査所の設置・会場費、検査キット、人件費などを含めると年間費用は最大34兆円。この金額は国防予算(約29兆円)を上回る規模なのだとか。中国では政府主導の大規模検査を関連企業に請け負わせたことで、ワクチンや検査に関わる業界がこの1、2年で一大産業へと急成長しました。しかし、そうなると不正行為をはたらく輩が出てくるのが常。案の定、検査会社がPCR検査の数を水増したことが発覚、社会問題に発展したこともありました。そのためSNS上でも、PCR検査の常態化に対して批判の声があがるようになってきました」(同)
そこで、中国当局が苦肉の策として考え、5月下旬に発表したのが、PCR検査を地方政府に負担させるという方針だった。
「ただ、人口がたくさんいて潤沢な資金がある都市ならともかく、小さな地方都市では、当然すべての費用を負担するには無理があります。そのため地方都市によっては感染リスクが低い地域からの訪問者にはPCR検査の陰性証明を求めないといった措置を打ち出したり、あるいは自費でのPCR検査を定期的に求める地方都市も出てきています」(同)
中国当局は、自費でPCR検査する場合は1人当たり16元(約325円)以下にするよう各都市に通達しているが、これまで無料だったのだから当然、住民の有料化への反発は強い。
「結局は、習近平の『ゼロコロナ』政策により政府の財政負担が大幅に増え、そのしわ寄せが今度は地方や人民に下りてきたということです。ただ有料になったことで、地方都市におけるPCR検査率は下落するでしょうから、クラスター発生の確率が増える可能性は高くなる。つまり本末転倒で、習近平が掲げる『ゼロコロナ』は、すでに“スローガン倒れ”になっているということです」(同)
中国の全国民が首をかしげる、習近平政権のこの「コスト度外視」政策は、いつまで持つのだろうか……。
(灯倫太郎)