快進撃!シン・ID野球「ノムラの教え」がプロ野球を席巻(1)ヤクルト独走の根拠

 今季のセ・パを牽引する指揮官たちに共通する師匠の存在にお気づきか。「金を残すは三流、名を残すは二流、人を残すは一流」という格言を好んで口にした故・野村克也氏である。かつて一時代を築いた野球理論は、薫陶を受けた教え子たちに受け継がれ、弟子たちも進化を遂げていたのである。

 目下、セ界のペナントレースは燕の一人旅だ。交流戦で、セ・リーグでは初となる全カード勝ち越しの完全優勝を果たしたヤクルト。その勢いはリーグ戦再開後も収まる気配がない。スポーツ紙デスクが解説する。

「6月21日の中日戦に負けたことで、交流戦から続いた連勝こそ8でストップしましたが、24日には2位巨人に11ゲーム差をつける独走状態です。打線は、交流戦6ホーマーでMVPに輝いた村上宗隆(22)を筆頭にホームラン量産体制。投げるほうもエース小川泰弘(32)や高橋奎二(25)ら先発陣と清水昇(25)やマクガフ(32)らリリーフ陣が無類の安定感を発揮。23日時点で、チームはセ1位の防御率と本塁打数を誇ります」

 まさに投打ともに天下無双で、2年連続でVロードをひた走る高津臣吾監督(53)のお株は天井知らずの急上昇。その常勝チームの背後には、90年代のプロ野球界に「ID野球」を浸透させた恩師の教えがチラついている。野村ヤクルトで選手・コーチとして監督を支えた、野球評論家の角盈男氏が強さの秘密を明かす。

「高津監督が現役時代に学んだ、野村克也さんのデータ分析が好調の要因でしょう。選手時代に、8年間も同じような内容の講義を聞いてますから、もはや免許皆伝も同然(笑)。とかく、ノムさんのデータ分析は実戦向きで、今の野球にも通ずるところがあります」

 その最たる例が、90年代に横浜(現DeNA)の守護神として君臨していた大魔神・佐々木主浩の〝魔球対策〟だった。

「他球団は直球を狙いつつフォークも頭の片隅に入れる〝二兎を追う〟指示が出ていました。ところが、ノムさんは『お前らにはフォークは打てん』と直球一本に的を絞らせていた。当時、3球のストライクのうち1球は直球を投げるデータの裏付けがあったんです。惨めな三振こそありましたが、佐々木攻略はピカイチでした」(角氏)

 なるほど、交流戦で12球団トップの24本塁打を量産したのも頷けよう。

「150キロ超の直球と落ちる変化球を軸に配球するパの投手はいいカモですよ。今のヤクルトは村上に限らず塩見泰隆(29)や濱田太貴(21)も迷いのないフルスイングでアーチを連発している。おそらく、ベンチから狙い球を絞って他は捨てるよう、指示が出ているのでしょう」(角氏)

 もちろん、データは攻撃のみならず守備にも活用されている。コーチとして常勝ヤクルトで野村監督に師事した、野球評論家の伊勢孝夫氏が後を引き取る。

「扇の要である中村悠平(32)の配球に生かされています。正直、破壊力のある打線に比べると、投手の力は数段見劣りする。それでも、打者の弱点を突いて『してやったり』と言わんばかりのリードで勝たせている。中村のリードに首を振る投手はほとんどいません」

 草葉の陰から高笑いが聞こえてきそうだ。

*快進撃!シン・ID野球「ノムラの教え」がプロ野球を席巻(2)につづく

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