ウクライナとの闘いは兵士による実戦だけでなく、情報の空中戦も激化。ロシア国内で「反戦ムード」が広がらないよう、プーチン大統領はメディア統制にも目を光らせている。
ところが、そんな中で「プーチンが最も恐れた男」とされるアレクセイ・ナワリヌイ氏のドキュメンタリー映画「ナワリヌイ」が、日本でも今月17日、公開された。
同作は、ナワリヌイ氏を襲った2020年8月に起きた暗殺事件に端を発し、一命をとりとめた同氏が、イギリスに本拠を置く民間の調査機関「ベリングキャット」全面協力のもと、自分を暗殺しようとしたのは何者なのかを徹底調査、その背景を抉り出すというものだ。
「映画では、ベリングキャットにより、ナワリヌイ氏を尾行していた工作員たちの氏名と電話番号が判明し、ナワリヌイ氏自らが彼らに電話をかけ、関係者を装って工作員から犯行の手口を聞き出すという場面が登場します。その緊迫した映像は、ハリウッドのサスペンス大作も及ばないほどスリルと迫力があると話題になっています」(映画ライター)
ところで、なぜプーチン氏は、抹殺を考えるまでにナワリヌイ氏に“恐れ”を感じていたのか。そこには長年にわたる両氏の因縁が影響している。
「ナワリヌイ氏は反体制活動家として、かねてからプーチン政権の独裁的手法や、プーチン及び政権与党・統一ロシアがかかわる汚職の事例を次々に告発してきました。2017年には、同氏の呼びかけで大規模なデモが何度も行われ、毎回1000人以上の参加者が身柄を拘束されている。プーチン氏としては、常に目障りな存在だったわけです。そのため、記者会見などでナワリヌイについての質問が出ても、『あの男』として絶対に『ナワリヌイ』という固有名詞を使わないくらい毛嫌いしていた」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
そんな同氏が大統領選出馬の意向を示した2年前、事件は起こる。
シベリアからモスクワに向かう旅客機の中で、突然苦しみはじめたナワリヌイ氏。驚いたパイロットは緊急着陸を決断。ロシア中南部のオムスクに緊急着陸し、救急搬送された。ただ、入院した病院でも身の危険を感じた夫人やスタッフがドイツに助けを求め、ドイツに移送されることに。ドイツの病院で精密検査を受けた結果、旧ソ連軍が開発した毒薬「ノビチョク」が使われていたことが判明したのである。
しかし、ナワリヌイ氏は「自分の身に起こった状況を国民にそのまま知らせたい」との思いもあり、2021年1月、当局による帰国・出頭命令に従い帰国。その後拘束されることになるが、流刑地からもSNSを駆使し“プーチン宮殿の動画”を流すなど、強い発信力でプーチン氏を攻撃してきた。
「国営タス通信は今年3月、同氏が主宰する『反汚職財団』が詐欺容疑で有罪と判断され、最高度の警備レベルを誇る刑務所で9年間の追加服役を命じられ、すでにその刑務所へ移送されたと伝えています。ところが、ナワリヌイ氏の広報担当者は、同地への移送をまだ確認できていないとコメント。プーチン氏にとって、ナワリヌイ氏はもっとも消えてほしい人物ですからね、生死の行方が気になるばかりです」(同)
悲しいかな、“プーチンが最も恐れる男”の運命はまだ、プーチン氏の掌中にあることは間違いないようだ。
(灯倫太郎)