新型コロナのパンデミックも、少なくとも感染状況はようやく落ち着きつつあるようだ。各種制限が解除され、政府は外国人観光客の受け入れ再開を決定。巷には賑わいが戻り始めた。その一方で、いまだ先行きが見通せず、借金返済を断念し自己破産する人が増えているという。なかでも、政府による「特例貸付」を利用しながら破産に至るケースが相次いでいるのだ。
2020年3月、政府はコロナ禍によって生活が困窮した人向けに、最大で200万円まで融資する「特例貸付制度」を設置。無利子で当面の生活資金を援助するこの制度、返済は早い人で23年1月から始まるのだが、返済開始前に早くも自己破産する人が増えているのだという。
「共同通信が、融資の窓口である全国の自治体を対象に調査を行ったところ、自己破産や債務整理を依頼した人はおよそ5000人、負債額は20億円に上るとのこと。もっとも、回答を得られたのは全体の約半分で、実際の数字は倍以上だと考えられます」(経済ジャーナリスト)
特例貸付の総額は約1兆4000億円。今年8月末まで申し込みができるから、もう少し額は増えるものと思われるが、いずれにしても、そのうち決して少なくない額が焦げ付くことになる。言うまでもなく、原資は血税や国債、すなわち国民のお金だ。特例貸付とは異なるが、このところコロナ給付金の不正受給も相次いで発覚。それも氷山の一角だろうから、いったいどれだけのコロナ関連金が露と消えたのか、予想もつかない。
なぜ返済前から自己破産する人が増えているのか。前出の経済ジャーナリストは語る。
「ひとことで言えば、この先も生活が苦しいままと考える人が多いからです。コロナの落ち着きで業績回復が見込める企業も一部ありますが、予想外の円安もあって“お先真っ暗”というところも実は多い。また、とにかく救済が先決だということで無節操に融資してしまったため、返す見込みが立たないまま借金を背負わせる形になってしまった、と言えなくもない。1兆数千億円というのは前代未聞と言っていい規模ですからね」
厚生労働省が今年3月に行った調査によれば、アンケートに応じた536自治体のうち495自治体が、「今後、返済に困り相談に来る人が増えると思う」と答えたという。
格差是正は岸田政権の最重要テーマだったはずだが、このままでは格差はコロナ前より広がってしまう可能性が高い。象徴的なのが、黒田東彦日銀総裁の「家計が値上げ許容」発言だろう。富裕層が値上げを許容できるほど豊かになる一方で、低所得者層は困窮度を増すばかりだ。
「先日、岸田首相と日銀が円安について憂慮するとの異例の声明を発表しましたが、黒田総裁は超低金利政策の姿勢を崩しておらず、円安に歯止めがかかる兆候は見られません。当面は原材料費の高騰が続き、消費者物価の上昇は止まらないでしょう。一方で庶民の給料は頭打ちのまま。このまま破産者の増加が止まらなければ、“令和の徳政令”を求める声も冗談ではなくなってくるかもしれません」(同)
参院選に向けとにかく議席数獲得に必死な政治家たちに、庶民の叫びは届くのだろうか……。
(加賀新一郎)