今年4月、いよいよ2期10年の任期を終える日銀の黒田東彦総裁。
2013年春に総裁就任以来、「マネタリーベース(日銀が世の中に直接供給する金)を2年で2倍に膨らませ、2%の消費者物価上昇率を達成する」として、「異次元金融緩和」をスタートし、デフレ脱却戦略を推し進めてきた。
結果、2001年には5兆円規模だった民間金融機関から日銀への当座預金が、100倍近い500兆円に膨張。これに現金を加えたマネタリーベースは600兆円を超えたものの、日銀は市場からの大量の国債を買い入れ、すると発行残高に占める保有比率が5割を超えることになった。
「本来であれば、これで物価は上昇するはずだったんです。しかし、黒田氏就任から9年間、物価上昇率が2%を超えることはなく、最後となる昨年、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、それに伴う原油価格上昇と米国の金融引き締めによる円安で物価が急騰するという皮肉な結果になってしまった。つまり、黒田氏が掲げた『異次元緩和』は、結果的にはほどんど効果がなかったということです。そこで、黒田氏は昨年12月に『国債市場、債券市場の機能度を改善する』として“事実上の利上げ”に踏み切ったわけですが、マーケットは大混乱。長期金利はすぐに上限の0.5%まで上昇し、大手銀行はこぞって住宅ローンの固定金利引き上げを発表。変動金利には手を付けられなかったものの、日銀による短期金利が引き上げられれば、当然こちらも上がることは避けられないでしょう」(経済アナリスト)
そして、今回の「黒田ショック」により、いち早く暗い影を落としているのが、不動産マーケットだという。
「実はこの10年間、『不動産バブル』と言われてきたように不動産価格は高値を維持してきました。これは、新型コロナの影響を受け、景気が悪化したときでさえ例外ではなかった。ところが今回の黒田発言を受け、あれだけ人気の高かった東京・湾岸地域エリアのタワマンがいきなり売れなくなるという『異変』が起こり始めたんです。そのため不動産業界ではこの3月、つまり黒田氏退任と同時に『不動産バブル』大崩壊が起こるのではとの懸念が広がり、戦々恐々の状態だといわれています」(同)
岸田内閣は2月、日銀の後継人事案を国会に諮るが、いずれにせよ新総裁の方針いかんによって、金融市場が大きく左右されることになる。
「岸田政権が『増税+利上げ路線』をとるということは、すなわち『アベノミクスの完全否定』が決定的になったということ。そんな中、次期日銀総裁が『異次元金融緩和』を引き継ぐのか、あるいは軌道修正を図るかに世界の金融関係者が注視しており、支持率低迷に頭を痛める首相としても人選には絶対にミスは許されない。新総裁は今後5年の在任中に黒田氏が残した『負の資産』を受け継ぎながら、過去10年間の効果とコストを総決算し、どの部分を残しどの部分を切り落とすかを決断するという極めて重い責任を担うわけです」(同)
政府は「従業員への賃上げを!」と盛んにアナウンスしているが、増税に利上げ・円安に喘ぐ企業経営者らが「はい、わかりました」となるかどうか…。新総裁の手腕に期待したいものである。
(灯倫太郎)