「プーチン大統領がウクライナに送り込んだ部隊は敗北に向かって突き進んでおり、この敗戦がソ連崩壊後の凋落にとどめを刺し、大国ロシアは過去のものとなるだろう」
中国社会科学院主催の非公開のオンラインセミナーで、ウクライナ元中国大使が語った、この発言をめぐり、今、中国国内で波紋が広がっているという。
発言の主である高玉生氏は、05〜07年にかけ、ウクライナ駐在中国大使を務め、現在は中央アジア専門家として活動する人物。
「高氏は、習近平主席の前任者である胡錦濤氏の下で大使を務め、現在は政府の役職には就いていないものの、現政権にも影響力を持つとされます。そんな同氏の発言がSNS上にアップされたのは11日のこと。表面上、ロシア寄りの立場を崩していない中国としては放置しておくわけにいかず数時間後には削除されたものの、既に拡散された後で、政権内部では大騒動に発展してしまったようです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
中国外務省の趙立堅報道官は11日の定例記者会見で、高氏の発言を「承知していない」と述べたものの、ここ最近、中国知識人の間ではロシアに対し今後も戦略的パートナーとして関係を強化していくことに対し、疑問を呈する声は少なくない。
「北京の名門、清華大学の国際関係研究院・閻学通院長も、香港のフェニックステレビのインタビューに応じ、『この戦争はロシアが世界的な影響力を持つことをほとんど不可能にしている』として、『中国に損失とダメージを与えるだけで、何の利益ももたらさない』と語っていますし、多くの有識者からも同様の声が上がっています。ロシアによるウクライナ侵攻当初は、中国国営メディアも、戦争の責任はNATOを拡大した米国を中心とした西側諸国にある、とロシア寄りの姿勢を明確に打ち出していましたが、ここ数カ月は擁護報道も鳴りを潜めるようになりました」(同)
さらに先月には、中国の秦剛駐米大使が米誌ナショナル・インタレスト(電子版)で「中露は同盟ではない」「〝中露枢軸〟と騒ぐのは危険な誤解だ」とする記事を寄稿。ロシアに対し距離を置き始めたことをほのめかし、関係者を驚かせた。
「決定的だったのは、9日の記者会見で『ロシアの戦勝記念日』について聞かれた、趙立堅報道官が直接の評価を一切避けたことで、これまでの中ロ関係を考えればありえない話です。つまり戦闘が長引けば、ロシアに対する国際社会の非難がさらに強まり、それが中国にまで向けられる恐れがある。ならば、今はダンマリを決め込むしかないというところでしょう」(同)
ただ、ウクライナ戦争後にロシアが弱体化し国際的に孤立すれば、中国は盟友を失うことになり、西側と対抗する“中ロ同盟構想”もついえることになってしまう。
7日、英紙フィナンシャル・タイムズのイベントに参加した米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は「プーチンの行為が米国と欧州の結束を強めたことで中国が落胆している」と指摘。また、ヘインズ米国家情報長官も10日、上院軍事委員会の公聴会で、ロシアの苦戦に対し「中国は台湾への軍事侵攻に自信が持てずにいる」との分析を示しているが、はたして中露の“蜜月崩壊”で習氏がプーチン氏を見限る日は来るのか……。
(灯倫太郎)