10月以降、ウクライナ東部ドネツク州都に近いウクライナ側の拠点・アウディーイウカ掌握のため、連日猛攻を続けているロシア軍部隊。イギリス国防省によれば、ロシア軍は同地域で、おびただしい数の犠牲を払いながらも2キロ前進。守りを固めるウクライナ軍との戦闘がさらに激しさを増しているという。軍事アナリストが語る。
「ウクライナ軍が反転攻勢を開始してほぼ5カ月。しかし、いまだ大量の地雷が敷き詰められたロシアの防衛ラインを突破することができず、このまま冬に入って天候が悪化すれば、さらに戦局が膠着する可能性が高くなる。逆にウクライナ東部の地域ではロシア軍の空爆による送電線破壊で、真冬に停電が起こる懸念もあり、思うようにウクライナ側の戦果が上げられない状況が続いています」
反転攻勢前には、これをもってロシア軍を殲滅できるのではというムードが軍部だけでなく政府内でも高まったが、戦果が上がらない現状に、ゼレンスキー大統領をはじめ政府関係者がイライラを募らせていると言われる。
「昨年2月のロシアによるウクライナへの侵攻以降、総司令官として部隊の指揮を執ってきたのがワレリー・ザルジニー氏。同氏は現在49歳で、南部オデッサの陸軍大学を97年に卒業後、ウクライナ軍に入隊。2014年からはドンバス地方での親ロシア派武装勢力との戦闘に参加し、この時の型破りな戦略が軍上層部から高い評価を得ました。その後、21年7月に総司令官に任命され、4つ星階級の英雄として世論調査では常にゼレンスキー大統領と並んでウクライナで最も信頼されている人物なんですが、ロシア軍との戦闘で苦戦を強いられる中、政府関係者の間からは、このままザルジニー氏に任せていてよいものかとの声が上がりはじめているとも伝えられています」(同)
そんな中、ザルジニー総司令官が英誌エコノミストに寄稿し、反攻作戦が期待を裏切り膠着状態に陥っていることについて「私が間違っていた」と認め、危機感を表明したのが11月1日のことだ。
ザルジニー氏は記事の中でこう語っている。
《(ロシア軍を消耗させればプーチンを止められるという考えは)私の間違いだった。ロシアは少なくとも15万人もの戦死者を出し、これだけ犠牲者が出れば普通の国なら戦争を止めていただろう。しかしプーチンが想定しているのは数千万人を失った世界大戦規模だった》
つまりプーチン大統領は、どれだけ多くのロシア人兵士の命が失われようとも絶対にこの戦争を辞めるつもりはない、ということだ。ザルジニー氏はその部分を見誤ったとして、こう続ける。
《正直に言おう。ロシアは封建的な国家で最も安い資源は人間の命だ。逆に我々にとって最も高価なのは国民の命だ。戦争を長期化させないためにも、我々は新技術を見つけて素早く使いこなし迅速な勝利に結び付けなければならない》
記事によれば、反転攻勢開始から5カ月間でウクライナ軍が進んだ距離は17km。この距離をどう取るかは立場によって異なるだろうが、いずれにせよ同紙の告白により、プーチン氏の鬼畜ぶりが改めてクローズアップされることになったのである。
(灯倫太郎)