ロシア正規軍と傭兵部隊ワグネルとの間で、険悪ないがみ合いが激化している。
今年に入り、ウクライナ東部ソレダルでウクライナ軍を破り、制圧したと発表したプリゴジン氏率いるワグネル。しかし、当初ロシア国防省は「ソレダルの制圧」じたいを否定。ところが2日後には「ソルダルを奪ったのは正規軍だ」と発表し、制圧はロシア軍によるものとした。すると今度はプリゴジン氏が「ロシア軍は常にわれわれの戦果を盗み取る」と反撃。一事が万事、両軍の間では対立構図が出来上がっている。
ロシア情勢に詳しいジャーナリストが説明する。
「ロシア軍上層部の中には、飲食業からのし上がったプリゴジン氏を『しょせんはプーチンの料理人』と、快く思っていない幹部が少なくなかった。ただ、当初ワグネルはあくまでも『プーチンの陰の部隊』で表に出てくることがなかったため、正規軍としてもまったくの別動隊という認識しかなかったんです。しかし、ウクライナ戦で成果を見せ始めた昨年9月から、プリゴジン氏自身がSNSを通じて『ワグネルを作ったのは俺だ』『正規軍は何もできない』などと批判。さらには軍の最高位にあるショイグ国防相をも批判したことで、両者の間に埋まらない溝が出来てしまったというわけです」
出る杭は打たれるというわけだが、米国のシンクタンク戦争研究所(ISW)によれば、それでもスカウトしてきた囚人を次々と最前線へ送り、それなりの戦果を挙げていた時期はプーチン大統領からの評価も高かったとされる。だが、昨年末から戦況が不利になり、東部の軍事要衝地バフムトを占領出来ない中、ワグネルに対するプーチン氏の評価が急落。結果、同氏の信頼が正規軍を率いるゲラシモフ参謀総長とセルゲイ・ショイグ国防相へ移行した、と分析している。
「正規軍では制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長の総司令官就任を機に、年明け以降、精鋭の空挺軍をバフムトなど激戦地に投入し猛攻撃を仕掛けていますが、これはプーチン氏がワグネルに代わって、再び正規軍を重視し始めた証拠。ロシア首脳部の中には、プリゴジン氏の行き過ぎた行動に対し拒否反応を持つ者が多いため、今後のパワーゲームの行方に、西側諸国の注目が集まっています」(同)
21日には米国財務省がワグネルグループを超国家的犯罪組織に指定。強力な追加制裁に入ったが、この点もプーチン氏の「ワグネル離れ」を加速させた要因となったとの指摘もある。
とはいえ結局、独裁者というのは、自分が寝首をかかれないように常に部下のパワーバランスを考えるもの。ゆえに、どちらかが力を持てば、それを力で押しとどめながら、もう一方にさらなる忠誠心を誓わせる。プリゴジン氏の政界進出もささやかれている今、こういった展開も、プーチン氏の思惑通りなのかもしれない。
(灯倫太郎)