陸上男子短距離のサニブラウン・ハキームが、100m走の日本記録を塗り替えた。全米大学選手権で出たタイムは9秒97。サニブラウン自身、9秒台を出したのは2度目だ。
日本の100m走といえば、初めて9秒台を出した桐生祥秀。桐生の巻き返しに期待する声も多いが、陸上関係者は「9」の争いよりも「19」に着目していた。「19」とは、200m走のことだ。
「サニブラウンは全米大学選手権の予選で、『追い風2.4メートルの参考記録』ながら、9秒96も出しています。自身初の9秒台を出したのが5月11日ですから、1カ月間で3度も9秒台を弾き出したことになります」(体育協会詰め記者)
9秒台の高速時代突入を予感させるものの、200m走に関心が集まる理由はひとつ。サニブラウンは200mのほうこそ素質があると見られているからだ。
「サニブラウンが初めて9秒台を出したとき、陸連は『後半はまだ伸びる』という評価もありました。それで桐生の闘志に相当火が点いている」(同前)
桐生は東京五輪に照準を合わせ、調整を続けている。しかし、悠長なことは言っていられない。200mが専門の小池祐貴が5月のゴールデングランプリ大阪の100m走で10秒04の好タイムを出し、五輪標準記録を突破したからだ。100mが得意な桐生、山縣亮太らは小池の100m走での奮闘を見て、
「100m、200mの両方で五輪代表になるつもりでいかなければ出場も危ない」
と危機感を強め、警戒するようになったという。つまり、100mの覇権争いは200mにまで広がりつつあるのだ。
日本歴代トップの座をサニブラウンに奪われた桐生、100mでも通用しそうな200mが専門の小池。そんな切磋琢磨が、日本人初の19秒台を生み出しそうな雰囲気を醸成しているという。
「桐生は久しく9秒台を出していません。本人は『調子は悪くない』と語っていましたが。山縣らもいるので、東京五輪前に好タイムを出しておかなければ、リレー要員に転落する恐れもあります」(スポーツ紙記者)
桐生が日本人初の9秒台ランナーである事実は変わらない。しかし、他選手の猛追が続けば、過去の人になってしまうかもしれない。主導権を握るには、「19戦争」でも存在感を示す必要がありそうだ。
(スポーツライター・飯山満)