桐生祥秀は「100mに専念する」とし、ライバルのサニブラウン・アブデル・ハキームは異論を唱えた。短距離系競技のなかで、日本が金メダルを狙えるのは、男子400mリレーであることは間違いない。前回リオデジャネイロ五輪では銀メダルを獲得した。2019年10月の世界陸上でも、多田修平、白石黄良々、桐生、サニブラウンで臨み、銅メダルに輝いている。彼らの武器は、世界も認める「正確でスピーディなバトンパス」だ。
短距離系の競技で金メダルを獲得すれば、まさに歴史的快挙である。その思いが強すぎたからか、日本陸上連盟と選手たちの間に溝ができてしまった。
「陸連は『100mか200mのどらかと、400mリレーに』という案を伝えました。それに対し、サニブラウンは100m、200mの両方に出たいとし、個人記録があって、その次に団体記録と発言しています」(体育協会詰め記者)
サニブラウンの発言は、年間の優勝者や大会で活躍した選手たちを表彰する「アスレティックス・アワード2019」で出たもの。「ぶっちゃけて言うと」と前置きしたところからしても、陸連の100mか200mの二択案には本当に怒っていたのだろう。
それに対し、桐生は「自分の得意な…」と控えめなコメントで、大人の対応を見せていた。そもそも、陸連が二択案を提示した理由は日程問題にあるという。8月1日に100m走の予選があって、翌2日に準決勝と決勝。中1日空けて、同4日に200m走の予選と準決勝、同5日に決勝。陸連が期待する400mリレーは同6日に予選、7日に決勝となっている。サニブラウンのように、100m走と200m走の両方に出たいとする選手は7日間で最大8回も走ることになり、最後に予定されているリレーで”ガス欠”なんてことにもなりかねないのだ。
「日程を理由に100m走と200m走のどちらか一方に絞るべきだという理論は分かります。でも、それは個人の自由だし、400mだけでも何とかメダルをという思惑が透けて見えます」(同前)
大人の対応を見せた桐生も、200m走で入賞を狙える位置にいる。
陸連は「原則として」と言い、まだ最終決定ではないと強調していたが、アスレティックス・アワード2019で説明された選手選抜方法でいけば、100m走と200m走に出て、リレーに出ないという選択も可能となるのだ。
サニブラウンはリレーを捨て、ライバルたちもそれに追随してしまったら…。そんな最悪の事態を避けるためにも、陸連は選手たちときちんと話し合うべきだろう。
(スポーツライター・飯山満)