陸上選手のサニブラウン・ハキームが、ついに夢の9秒台に到達だ。5月11日に米アーカンソー州で開催されたSEC陸上選手権大会の男子100メートル走にて、日本歴代2位となる9秒99で優勝。5月1日から記録認定がスタートした東京五輪の参加標準記録(10.05秒)を日本人選手として最速でクリアすることとなった。
「サニブラウンは史上139人目、日本人としては2人目となる9秒台をマーク。日本陸上界にとって最高のニュースとなりましたが、本人は『遅かれ早かれ達成できると分かっていた』と涼しい顔でした。彼にとっては記録よりも、練習で培ったすべてを出し切ることのほうが大事だったそうです」(スポーツライター)
日本の各メディアはサニブラウンの9.99秒走を一斉に報道し、東京五輪でのメダル奪取に期待を寄せている。だが今回のレースでサニブラウンは、日本人初の偉業も達成していたのだが、それに気づいているメディアは皆無のようだ。前出のスポーツライターが指摘する。
「日本のメディアでは今回の大会を『大学南東地区選手権』と訳しており、単なる地方大会の一つと捉えている人も多いのですが、それはとんでもない間違い。実際はNCAA一部の強豪カンファレンスとして全米に知られる『サウスイーストカンファレンス(SEC)』の選手権なのです。アメリカには他にも『BIG10』や『PAC-12』『ACC』といった強豪地区があり、それらの地区選手権で優勝を果たした日本人選手は、あらゆる競技を通してサニブラウンが初めてではないでしょうか。この実績はもっと大きく報道されるべきですし、称賛されてしかるべきでしょう。なお団体競技も含めれば昨シーズン、八村塁を擁するゴンザガ大学のバスケットボール部がウエストコーストカンファレンスで優勝しています」
アメリカンスポーツのマニアたちから、サニブラウンの優勝シーンに感動したという声が続出したのは、ゴール後のサニブラウンを祝福するライバルたちがオーバーン大やLSU、ミシシッピー州立大といったスポーツ強豪校の選手ぞろいだからだ。
ただいくら強豪地区とはいえ、全米にいくつもあるカンファレンス大会で優勝しただけにすぎないという見方もある。その点はどうなのだろうか。
「サニブラウンの所属するフロリダ大学では五輪の金メダルを60個も輩出。日本全体で156個ですから、たった1校で一国の4割近い実績を挙げており、競技レベルの高さは明らかです。またSECに所属するテネシー大学出身のクリスチャン・コールマンはいまや、ウサイン・ボルト不在の男子100メートル走をけん引する存在。9.79秒の記録を持つコールマンは東京五輪の金メダル最有力候補であり、そんな超有力選手をSECはばんばんと輩出しているのです。それゆえSEC陸上選手権の競技レベルは日本選手権を上回るといっても過言ではなく、そこで優勝したサニブラウンの功績は長く語り継がれるべきでしょう」(同・スポーツライター)
ちなみに各テレビ局で放送しているサニブラウンの優勝シーンは「SECネットワーク」が配信したもの。大学カンファレンスが専門のテレビチャンネルを持っていること自体が、アメリカ大学スポーツの奥深さを如実に表していると言えるだろう。