「東京五輪中止」で浮上した“代替イベント”の中身と新設会場の赤字運営

 島根県知事が東京五輪の聖火リレーの中止検討を表明するなど、「五輪中止」への機運は高まりつつあるが、この大会を目標にしてきたアスリートや会場問題はどうなるのか…。代替大会の行方と新設会場の赤字運営の実態に迫る。

 五輪中止となれば、代替大会の開催が検討される。だが、各種目が世界中から集まる国際総合大会という形式での実施は、極めて困難となる。そうした状況下で、にわかに計画されているのが、競技団体ごとの「記念大会」だという。

「体力のピークが競技のパフォーマンスに直結する柔道、競泳、陸上の選手のために開催される見込みです。いずれにしても有志による非公式の大会になりますが、早い話、ベテラン選手が引退に踏み切るためのイベントになりそうです」(組織委員会関係者)

 つまりは、本来であれば東京五輪でメダルを獲得して有終の美を飾るはずだったアスリートたちが、志半ばで幕引きするのを見守るしかない大会ということだ。

 さらには、常に檜舞台が用意されるメジャースポーツとは裏腹に、マイナースポーツは試練が続く。自国開催という競技人口を増やす絶好のチャンスを失うことになるのだ。同様に、東京五輪のために新設した大箱会場の扱いにも苦心することになる。

「東京五輪に向けて1375億円をかけて新設した、6会場全てが赤字運営になりそうなんです。スポーツと客単価の高い音楽イベントの合わせ技で黒字計画だった『有明アリーナ』ですら、コロナの影響で事業計画の見直しを迫られています」(大手デベロッパー)

 都の公共施設になるので、必ずしも収益性だけを求めるわけではないが、

「競技人口が増えない限りは利用者も見込めません。特に、カヌーやボート競技の会場である『海の森水上競技場』は、当初見込んでいた約1億6000万円を上回る赤字になりそうです。そもそも、首都圏の選手たちは埼玉の『戸田漕艇場』を利用しますからね。長野五輪の時にボブスレーやリュージュの会場で、19年以降は製氷を断念した『長野市ボブスレー・リュージュパーク』の二の舞にならなければいいのですが‥‥」(大手デベロッパー)

 もちろん負のレガシーの赤字分は、国民の税金で補填される。

 一方、どんなにカネを注ぎ込んでも解決策が見出せないのは、3500人の大所帯に膨らんだ組織委員会職員たちの処遇問題だ。約900人の都庁職員はもとより、スポンサー企業からの出向者も多数在籍している。一様に危ぶまれているのは、五輪中止決定後に元の職場のポジションに戻れるかどうか。出向中の広告代理店関係者が不安な胸中を明かす。

「最長7年近く本業から離れていた人間が復職しても、戦力にはなりません。東京五輪を成功に導いた成果を手土産に凱旋するはずが、同僚との出世競争で大きく水をあけられているかもしれない。森氏は『出向者の面倒は最後まで見る』と、後見人としてフォローすることを約束していました。その森氏を失った今、出向組の社員たちは戦々恐々としていますよ」

 よもや、五輪が栄えあるキャリアを傷つけようとは誰も思わなかったはずである。

※「週刊アサヒ芸能」3月4日号

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