いよいよ、中国政府による北京五輪「外交ボイコット」に対する報復の始まりなのか。
中国で公開が予定されていた米ハリウッド映画『スパイダーマン』のシリーズ最新作が12月中旬、突如取り消された。中国外務省は、米国が北京冬季五輪の外交ボイコットを決めたことに対して対抗措置をとると明言。当局も、米映画の上映を制限し、愛国主義的な国産映画を後押しするとしていたが、その第一弾が絶大な興行成績を誇る話題のハリウッド映画とあって、関係者の間に大きな衝撃が走った。
映画ライターが語る。
「コロナ禍で大打撃を被った映画界ですが、近年、アメリカを抜いて世界最大の興行収入を上げているのが中国。特に昨年は映画製作でも大躍進し、数カ月に及ぶパンデミック閉鎖から素早く立ち直れた背景には、中国国内における映画市場の活況があると言われています」
ただ周知のように、検閲がある中国では政治、宗教のチェックに厳しく、また、バイオレンスや性的描写などがある作品は基本的に上映できない。
「自国制作の映画は無論のこと、ハリウッド映画も中国で上映するためには、それらのシーンをカットしなければならず、近年では中国市場を見据えた自主検閲も生まれています。結果、スタジオやメーカーは振り回され、余計な仕事を増やされることになりますが、とはいえ、マーケットの大きさを考えると中国を完全に無視するわけにはいかない。それが、今のハリウッドと中国との関係なんです」(同)
実際、中国における『ワイルド・スピード』シリーズの最新作の売り上げは北米を上回り、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の興行収入も、6億ドル(約660億円)に達したと言われる。
「一方で2018年には、クマのプーさんを使った習近平批判の映像が出回ったことが原因で、ディズニー映画『プーと大人になった僕』が上映禁止に。また、中国の会社が25%資金を提供したタランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)も、何らかの圧力により公開1週間前で上映禁止に追い込まれました。今年3月公開の『モンスターハンター』では、『俺の膝を見ろ。どんな膝(ニーズ)だ? チャイニーズだ』というセリフが人種差別と捉えられ、上映打ち切りになったことは記憶に新しい」(同)
中国政府は「今後も映画の興行収入世界一の座を維持する」と表明。今後は輸入映画に頼らず、自国での映画制作を拡大し、エンタメでも世界一を目指す意向を示しているが、映画界を皮切りに「外交ボイコット」に対する報復は、さらにエスカレートしそうだ。
(灯倫太郎)