「中国恒大集団」経営危機でアジアサッカーの強豪「広州FC」はどうなる

 アジアのサッカークラブNO.1を決めるAFCチャンピオンズリーグで、2013年には日本の柏レイソルを、15年にはカンバ大阪を共に準決勝で破って2度の優勝に輝いたのが中国のサッカークラブ「広州FC」だ。特にこの間、同クラブに在籍し、2度の決勝でゴールをあげて優勝に貢献したブラジル出身のFWのエウケソンの存在を、日本のサッカーファンは苦々しく思ったものだ。

 さてその広州FCの存続について、サッカーファンならずとも注目している。というのも、「中国版リーマンショック」とまで言われて世界の株式市場で懸念材料となっているのが中国不動産大手の「中国恒大グループ」の経営危機だが、この中国恒大こそ広州FCの親会社だからだ(元のチーム名は「広州恒大」だったが、中国国内ではチーム名に企業名を入れることが21年シーズンから禁止されたので「広州FC」に改称)。

「中国恒大の経営危機が明らかになったことで、日本の連休明けの9月21日にはそれまで3万円台だった日経平均を3万円割れまで押し下げ、世界各国の株価も総じて下げました。6月段階で約9兆円の有利子負債、負債総額33兆円というありさまで、一般の人にも利回り12%でグッチのバッグやダイソンの空気清浄機までもらえるというトンデモな資産運用商品(理財商品)を販売していたので、『金を返せ』と取り付け騒ぎまで起こっています」(経済ジャーナリスト)

 1996年設立の同社は、中国都市部の不動産価格急騰を背景に急拡大。10年に広州FCの前身の「広州足球倶楽部」を買収してスポーツ事業に乗り出したことから他分野に多角化、飲食やテーマパーク、EV(電気自動車)などを展開。最盛期には「(中国各地の)280以上の都市で、1300以上のプロジェクトがある」と豪語していた。ところが事業は社債の乱発と、一般の人に高利の理財商品まで販売していたというのだから、その自転車操業ぶりが伺える。

 そんな日本のバブル期を思わせる金満ぶりだったので、広州FCでも選手を買いあさった。現在同チームには5人のブラジル出身と1人のイングランド出身の助っ人がいるが、中国メディアによれば助っ人6人の年俸は64億円を下らないという。現在の監督は06年のドイツワールドカップでイタリア優勝に貢献した名DFのファビオ・カンナバーロ。以前はこのW杯でイタリアや代表監督を務め、ユベントスではヨーロッパクラブNO.1に導き、この両大会を制した初の監督になった名将のマルチェロ・リッピが監督に就いていたこともある。つまり、サッカー界の人間なら誰もが羨む金ピカクラブなのだ。

 しかもその”爆買い”ぶりが功を奏したのか、中国代表は22年にカタールで開催されるW杯予選を戦っている最中だが、その中国代表には4人の帰化選手がいて、いずれも広州FCの選手なのだ。だから、広州FCの趨勢は中国サッカーそのものの趨勢まで支配しかねない。それが消滅の危機にすらあるのだ。

「手始めに9月23日に社債の利払いがあって、中国の金融規制当局が目先のデフォルト(債務不履行)を回避するよう指示。グループも前日の22日に支払いを実施すると発表して一旦は落ち着きました。ただ年末にかけて利払いが続くので、この先どうなるかは不透明なままです。とりあえずはグループ内の資産売却が進められ、それでも間に合わなかった場合に中国政府が救済するか否かが目下の焦点となっています。では広州FCはどうなるのかですが、地元ではチームの解体はないだろうとの見方があって、複数メディアによると、広州政府が10〜15%の株式を引き受けて、残りは地元の国有企業が引き受けるのでは、との観測が報じられています」(前出・ジャーナリスト)

 中国国内ではさっそくカンナバーロとの監督契約の解除が報じられている。契約は22年まで残っていたようだが、おそらくは本人も安堵しているのではないか。バブルははじけるとあっけないもので、ドロ船から早く逃げ出そうという人間が今後、続出しそうだ。

(猫間滋)

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