関西「1万円ニセ札工場」にリアル潜入(4)造幣局の中に内通者がいた

 話をニセ札に戻そう。

 本物と見まごう精巧な紙幣を作るには手間がかかると思うが、全てがそうではないと劉氏が明かす。

「面倒な時、逮捕されてもいいような同胞を使う時には、磁気テープを貼りつけただけのニセ札を使います。見れば一発でニセモノとわかるものなのですが、大きな駅の自動券売機は緩いからすぐに通りますよ。実際に換金できていますから」

 にわかには信じがたいが、粗悪なニセ札でも面白いようにカタカタと飲み込まれ、釣りとして本物の札が出てくるという。

 日本人の協力者の存在を含め、これが裏の社会のシステムになっているようだが、吉田老人との関係について問うと、その仕組みがより鮮明になった。

「そうねぇ、もう20年ほどになるかなぁ。吉田さんが造幣局に勤めている頃からの付き合いだな」

「えっ、造幣局ですか!」

「じゃないと、紙幣の成分がわからないよ、さすがにね」

 劉氏の話では、いまだに吉田老人とつながり、新紙幣を製造している内通者が造幣局内にいるそうだ。その現造幣局職員には年間で数十万の香港ドルが入っているらしい。海外の大型バンクHSBC(香港上海銀行)に振り込まれているそうで、日本国内の警察組織も二の足を踏んでいるとか。

「(紙の原料の)マニラ麻とか三みつ椏またとか、そんなことはわからないし。中国の紙幣というのは粗悪なんです。日本のものとは比べ物にならない。中国で日本紙幣は造っているけど、この事務所は束ねたり、同胞に配送したりしている場所だから。秤だとかしかないでしょ。ガサが入った時に困るからね」

 どうりで殺伐としたオフィスだ。しかし、奥の部屋では数人の中国人と思しき男女がせわしなく動いている。ニセ札の束を封筒に分ける作業はいくらでもあるようで、ここもまた、一種の製造工場と言えようか。

 換金作業で全国を飛び回る彼らの移動は、ほとんどがバン。南は沖縄から北は北海道まで全国をまたぐ。

「でもね、中国人とバレると足が付くから、僕らは韓国人マフィアのフリをするんですよ。彼らは『ザジズゼゾ』の発音がヘタだから、僕らは彼らの喋り方のマネをしています。例えば、高齢者がいるようなタバコ屋でニセ札がバレかけることもあるんです。そんな時には、韓国言葉を使いますね。流暢に話さず『チュミマセンガ‥‥』とか『カムサハムニダ』とかね。意外に、みんな役者ですよ」

 そこからも私生活やファミリーのことなどを含め様々な話をし、十分に打ち解け合ったと思った。しかし筆者は気を抜きすぎたのか、ニセ札を見ながら劉氏に軽口を叩いて地雷を踏んでしまう。

「いやぁ凄い! 本当に精巧ですね。僕にこれ、1枚頂けませんか」

「殺すぞ、お前!」

 今までは冗談交じりに対応してくれていた劉氏の眼差しが一瞬にして変わった。人を殺めたことがあるような目だ。そのまま筆者は腰砕けになったが、幹部らしき男に両肩を抱えられ、外に連れ出された。

 その後はまた袋を被せられ、バンに放り込まれることになる。ひょっとして本当に殺されるのでは‥‥。そう思ったが、無事に最寄りの駅で降ろされた。ひょっとしてこの駅でもニセ札が使われたのでは─。

 24年には、渋沢栄一が印刷された新紙幣が印刷される。偽造防止に最先端技術が導入されているというが、その努力も協力者が嘲笑ってしまうのだろうか。

(フリーライター・丸野裕行)

*「週刊アサヒ芸能」9月23日号より

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