吉田老人の口添えのためか、劉氏の口は滑らかだった。
「中国はニセ札市場が荒れまくっていて、正直、商売にならない。その点、日本は(現金が路上に置かれているも同然の)自動販売機が多い。さらに、切符を買う自動券売機も多い上に緩いんです。ニセ札でも簡単に換金できる。最高のビジネス拠点ですね」
ニセ1万円札を券売機に入れて少額の切符を買う。釣りの9千何百円を丸儲け。位置、駅を替えて、その繰り返しだという。
自動で換金できる機械が相手でなくとも、視力の弱くなった老人などがひとりで相対するタバコ屋なども狙い目なのだと言った。
そこかしこでニセ札が市場にバラまかれ続けているという事実に目まいを覚えたが、筆者のジャーナリストとしての好奇心が勝ってしまう。マフィアに囲まれた状態で、どんどん質問を重ねた。
「皆さんは蛇頭の方なんですか」
「組織名は明かせませんが、まぁ、そんなところですね」
「他にはどのようなビジネスを?」
「昔からやっていることは〝密航〟ですね。密航者を募集して船をチャーターしたり、日本まで運んで契約しているマンションに放り込んだり、ビジネスを紹介したりしています」
蛇頭とは、福建省発の中国人マフィア。以前から世界各国への密入国を請け負う。中でも中国人が行きたがるのは日本だ。
いまだに同郷の在日中国人が受け皿となって、日本での違法在留者の受け入れや居住できる部屋、仕事の斡旋もやっている。かなり手広くやっているそうだ。
海上保安庁の船とは遭遇しない航路を見定めた船舶と偽造パスポートの調達までやっているという。
「ああ‥‥そっ、そうなんですか。かなり儲かるんじゃないですか」
声を上ずらせながら、平静を装って聞いた。
「大陸のやり方って、日本全土の暴力団と協力関係をすぐに結ぶからね。昔であれば数千万から1億そこそこだった。でも日本の暴力団と手を組むようになってから、そのシノギの儲けは格段に上がりましたね。今は一度の密航で約3億円くらい。もちろん暴力団と折半になるけど、儲けはデカいですね」
それまでは中国の船籍で密航していたが、法務省入国管理局等の関係機関や海上保安庁、沿岸地域の漁師などの厳しい目があり、特に日本海側の水際対策に苦労したという。ところが、日本のヤクザが用意する日本船籍の船に海上で乗り換えると、チェックがまったくなくなったのだとか。
そうなると劉氏率いる密航業者の確実性が評判を呼び、少々値が張ったとしても劉氏のグループが選ばれるようになったそうだ。
日本国内における中国人の外国人登録者は約80万人。しかし、この数字はあくまで登録者数。実際は、その数字をはるかに上回る密入国者が国内で暗躍しているのだ。そうした中国人たちが何をしているのかと言えば─。
「ニセ札の換金であったり、麻栽培、脱法ドラッグの製造と販売、パケ分けなどをやらせています」
劉氏は事もなげに言うのだった。
(フリーライター・丸野裕行)
*「週刊アサヒ芸能」9月23日号より。(4)につづく