薄汚れたトラックの荷台に、うずたかく積まれた小さな箱。中にいるのは、おびただしい数の犬や猫の赤ちゃんだ。鳴き声が響き、悪臭が漂う中、亡きがらとなった姿も……。
5月3日、香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」が、そんな目をそむけたくなる動画を配信、全世界に衝撃が走った。香港在住のジャーナリストが語る。
「動画が撮影されたのは中国南西部・成都市の倉庫内。撮影したのは『成都愛の家動物救助センター(Chengdu Aizhijia Animal Rescue Centre)』という動物保護団体です。同紙によれば、トラック内で見つかったペットはすべてが生後3ヵ月以下の子犬や子猫で、その数はなんと160匹。飢えなのか、窒息なのか原因はわかりませんが、うち4匹が息絶えていて、病気に感染している犬や猫も少なくなかったといいます」
空前のペットブームが続く中国。ところが、過熱するブームの裏で、「盲箱(ブラインドボックス)」という方法で、生きた動物を購入するニーズが急拡大しているという。
前出のジャーナリストが語る。
「『盲箱』というのは購入するまで中身がわからない、日本で言う『福袋』のようなもの。これが、ギャンブル好きな中国人の国民性にマッチしたのでしょう、当初玩具からはじまったブームが、飲食、コスメ、書籍と多くのジャンルに広がり、最近では『大人のおもちゃ盲箱』や『偽物ブランド盲箱』などのアングラモノが登場。そして、空前のペットブームを背景に現れたのが、生きたペットが入れられた『盲箱」だったというわけです」
「ペット盲箱」には猫、犬、亀、ハムスターなどの小動物があり、価格も数十元から1000元と、さまざま。ただし、中国の郵便法では、生きた動物を宅配便で輸送することは違法だ。
「ところが、民間航空規則では、送り主が『予防接種記録』や『健康証明書』などの必要書類を手配し、認可されたペット輸送用の梱包材を使えば、動物を飛行機で輸送できてしまうんです。業者はそういった法律の盲点を突き、各地からペットを空輸。それを独自のルートで販売しているようです」(前出のジャーナリスト)
とはいえ、ろくに餌も与えず、犬や猫の赤ちゃんに長旅をさせることから、途中、ストレスや病気で亡くなってしまうケースも多く、トラブルが後を絶たないという。
「ペット盲箱は買った時には元気に見えても7日も経つと問題が現れてもしかたがない、ということから、『一週間ペット』とも呼ばれています。さらに、輸送方法もさることながら、その多くが売れないペットや弱っているペットを『盲箱』といった名前で売り出しているため、検疫をしていないケースも多い。つまり、消費者に対しての衛生上の懸念がある。そのため、多くの業者がウリ逃げしようと『交換返品不可』と表示しています。そんなこともあって国営の新華社も社説で、愛すべき動物たちへの侮辱であり『血まみれのビジネス』と批判していますからね。たしかに、中国の経済は一流になったかも知れませんが、悲しいかな、今回の報道で、経済の発展に民度が追い付いていないことを全世界に知らしめる形になった。ただでさえ、中国はコロナでバッシングされていますからね。この報道の余波は大きいのではないでしょか」(前出のジャーナリスト)
生活習慣や文化、国民性の違いはあれど、人間の基本的な倫理観に大きな差はないはずだが……。
(灯倫太郎)
*写真はイメージです