1月下旬、東京地裁法廷の被告人席に一人の女性の姿があった。テレビで活躍する人気お笑い芸人へのストーカー行為で逮捕・起訴されたという。実刑判決が下されるまでの経緯をお笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。
先日、テレビ番組のMCも務める男性お笑い芸人が被害者となった事件の刑事裁判が東京地裁で行われました。
被告人は40代の無職の女性。罪名は、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反。起訴されたのは、去年11月某日の早朝に、被告人が被害芸人の自宅のインターホンを押してつきまとい行為をしたという件。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は2019年にも同じ被害芸人につきまとい行為をしたということで懲役6月執行猶予3年の判決を受け、警察からは近付かないようにと禁止命令が出ていたとのこと。しかし被告人は禁止命令が出ているにもかかわらず被害芸人のSNSに「いいね」を押すなどしていたらしく、禁止命令が1年間延長。
そして禁止命令中で執行猶予期間内でもある犯行当日。被告人は芸人宅のインターホンを押してドアを開けようとしたので、芸人がドア越しに要件を聞くと被告人が「会いたい」と言ったので110番通報をしたというのが逮捕までの流れです。
執行猶予中にまたもや同じ芸人にストーカーって…。被害者となった人気芸人も画面の中では明るく振る舞ってたけど辛かったんでしょうねぇ。しかも今回は早朝自宅を訪れるというかなり悪質な犯行ですから。
ちなみに取り調べで被告人は「前刑の判決後も被害者がいそうな所を散歩していた。法廷で被害者を『好きではない』と言ったのは早く東京拘置所から出るためだった」と述べているそうです。
個人的に2019年の裁判も傍聴してたんだけど、その中で、
検察官「端的に聞きますよ。被害者のことまだ好き?」
被告人「好きではないです」
という質疑応答があったんです。その発言はウソだったということなんでしょう。傍聴していて、てっきり目が覚めたのかと思ったんですけどね。
そして今回の法廷には被告人の母親が情状証人として出廷し、前刑の判決後1カ月で一人暮らしさせてしまったと後悔していました。母親としてもストーカーの認識が甘かったと自戒しているようで、被告人をカウンセリングに通わせると約束していました。
そして被告人質問。
弁護人「被害者の自宅はどうやって知ったんですか?」
被告人「ブログやツイッターでパン屋や惣菜屋を紹介してて、その辺を歩いてたんですけど、車のナンバーが誕生日に関係してるというのはファンの間でも有名で。たまたまその車があったのでここが自宅だなぁと」
近所を歩いてる時点で禁止命令を軽く捉えてる印象もあるけど、あくまでも偶然自宅を見つけただけとアピールです。
弁護人「犯行前に被害者の公式LINEに、今から家に行くとかメッセージを送ったのは何故ですか?」
被告人「逆の立場なら、いきなり来られたらビックリすると思って」
弁護人「自宅に行くのは禁止命令違反ってわかってましたよね?」
被告人「はい」
弁護人「逮捕されると思わなかったですか?」
被告人「(逮捕されるかも知れないと)ビクビクしながら歩いてました。相思相愛だと思っていたので、公式LINE読んでるし、頑張って行かなきゃって気持ちもあって」
弁護人「違反だけど行けば受け入れてくれると?」
被告人「はい。そう信じてました」
と一方的に想いが膨らんでいたんでしょう。被害芸人の立場になって考えるとたまったもんじゃないですよね。芸人さんはモテるから…なんて常套句では片付けて欲しくない事件です。
弁護人「もう命令に反して家行こうとは思いませんね?」
被告人「思いません」
今回はこの言葉がウソではない事を祈るばかりです。
この初公判から2週間後の2月4日、判決が言い渡されました。
結果は、懲役4月。4カ月間服役するという実刑判決です。
実際には前刑の執行猶予が取り消されるので、合計で10カ月間の刑務所生活。ストーカー行為が出来ないのはもちろん、被害芸人が出てる番組もSNSも見られないわけで、この間に被害芸人を忘れることが出来ればいいんですけどね。
とりあえず今年の秋までは被害芸人も安心でしょう。それ以降の平穏な毎日は被告人の更生次第となりそうです。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。