コロナ禍でタクシー運転手の収入が減少する中、それに追い打ちをかけるような事件が起こった。鳥取県警鳥取署は1月17日、横浜市から鳥取市まで約650キロにおよぶ無賃乗車をしたとして、住居・職業不詳で岩手県出身の女(40代)を現行犯逮捕した。
「所轄署によれば、女は17日の午前2時ごろ、横浜市のJR戸塚駅でタクシーに乗車し、『鳥取砂丘を見たい』と運転手に鳥取へ行くよう指示。運転手は女から『お金は鳥取駅で下ろします』と告げられていたため、8時間後、JR鳥取駅付近で料金の支払いを要求したところ、女は数百円程度しか現金を持っておらず、運賃23万6690円を支払わなかったため、そのまま詐欺罪で逮捕となったようです」(全国紙社会部記者)
それにしても、距離にして650キロ、さらに8時間も走らされたうえ、無賃乗車では、目も当てられないが、事前に乗車拒否することはできなかったのだろうか?
報道を受け、案の定、SNS上でも《そんな長距離、現金を確認してからじゃなくちゃ、危ないんじゃない?》《今時、コンビニでもお金は下ろせるのに『鳥取駅』と告げられ、不信感を持たなかったのかなぁ?》《帰りの手間を考えたら乗車拒否してもいいのでは…》といったコメントが目立つ。
だが、現役のタクシー運転手によれば「特に電車がなくなった深夜帯には、高額の料金を払って乗車する客が一定数いるため、乗車拒否するのが難しい」とし、こう説明する。
「県をまたぐような長距離の“ロング客”のことを『お化け』と呼びますが、コロナ禍でタクシー業界も不況まっただなか。事件に巻き込まれたタクシーが法人か個人かはわかりませんが、個人タクシーだった場合、一発ロング狙いで受けた可能性もありますね」
また、法人タクシーはLPG車を採用しているため、深夜に何百キロと走らせる“超長距離”の場合、燃料補給の心配が出てくる。その点、主にガソリン車を使う個人は、高速でも一般道でも給油が容易と言える。
「加えて、大手タクシー会社の場合、行き先が遠方になれば必ず会社の判断を仰ぐことになります。たとえば、2時間を超える連続運転になる場合はツーマンドライブ、つまりもう一人運転手が乗車するといったシステムを取っている会社もあり、すぐに出発というわけにはいかないケースもあります」(前出・運転手)
とはいえ、それでも「長距離無賃乗車」が後を絶たない背景には、「やはり、昼間の流しより、深夜の一発ロングは、桁違いにオイシイから」(前出・運転手)だという。
前出の社会部記者が言う。
「現在までの無賃乗車の最悪記録は2005年に起こった愛知県豊橋市から青森県青森市までの1115キロで、被害額は35万2900円。逮捕された青森出身の男(当時36歳)は、青森市内のショッピングセンターで下車し、ATMに向かうふりをして、そのまま逃走。翌日、市内のホテルにいるところを逮捕されてますが、これも氷山の一角で、犯人が逮捕されずに運転手が泣き寝入りしているケースは少なくないはず。本当に運転手泣かせな、卑劣な犯罪ですよ」
コロナ禍の外出自粛要請で利用者の減少にあえぐタクシー業界。運転手にとって、弱り目に祟り目かもしれない。
(灯倫太郎)
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