では、恩赦の対象になるのは、どのような罪を犯した人なのか。
サンフランシスコ平和条約発効恩赦(52年)では、大赦令、減刑令、復権令が出され、殺人および尊属殺人の死刑囚も減刑された。52年4月以前に禁固以上の刑に処せられた者が対象となったが、強盗、準強盗、強盗致傷、強盗強姦、同未遂、麻薬、建造物放火、同未遂、通貨偽造行使、同未遂、直系尊属傷害、同致死などは適用にならなかった。
明治100年記念恩赦(68年)では、公職選挙法違反関係者が75・9%を占めていた。昭和天皇崩御の際には、道交法、軽犯罪法、外国人登録法、食糧管理法など17の刑罰が対象となったが、殺人、放火、強盗などの凶悪犯は除外されている。
こうしてみると、時代によって恩赦の対象となる犯罪も様変わりしてきたことがわかる。そこで気になるのは、今秋の恩赦で、死刑囚などの重罪人が減刑されるかどうかだ。
例えば、66年に静岡県で一家4人が殺害された強盗殺人事件で死刑が確定した元プロボクサー・袴田巌さん(83)の弁護団は先月、刑執行の免除を求めて恩赦出願の方針を決定している。
「直近の事例から考えれば、軽微な罪に限定されるはず。死刑囚はもちろん、殺人や強盗などの凶悪犯が対象になる可能性はきわめて低いと思っていいでしょう」(小川氏)
恩赦には、罪を犯した人の更生状況などを見て救済する刑事政策的な意義があるが、「こと死刑囚に関しては、機能してきたとはいえない」と指摘するのは、日弁連の刑罰制度改革実現本部で事務局長を務める小川原優之弁護士だ。
「日本で死刑囚が恩赦になったのは75年の常時恩赦が最後です。無期懲役に減刑されましたが、その後、死刑囚についての恩赦は一度もありません。89年や90年の時は、死刑囚の間で『恩赦があるんじゃないか』という期待が相当高まりましたが、結局は対象になりませんでした」
確かに、75年当時とは時代背景が大きく変わってきている。2000年の犯罪被害者保護二法成立を機に、政府は被害者を重視する政策をとるようになった。被害者のいる犯罪に関与した人を広く恩赦の対象にすれば世論の反発を招きかねない。今秋の恩赦も、被害者感情に配慮し、90年の恩赦より規模は縮小すると見られている。やはり、死刑囚が対象になることはないのか。小川原弁護士がこう続ける。
「政権が強くなければ、死刑囚を恩赦対象にする決断など下せません。その点、安倍総理は盤石な政権基盤を築いているのですから、思い切った決断が下せるはず。保守を自認し伝統を重んじる立場の安倍総理が『国家的慶事を国民皆で祝いたい』と言って、例えば袴田さんを恩赦にすれば、自身の人気にもつながる。そう考えれば、ありえてもいい話です」
安倍政権の温情判断があれば、死刑囚が恩赦の対象になる可能性もゼロではないというのだ。