また、地下鉄サリン事件の実行犯の林郁夫受刑者は、最初に口を割って事件解明に〝貢献〟したことで、死刑ではなく無期懲役を求刑された。一審判決にも控訴せず、98年に刑が確定。服役して20年以上たったが、反省の姿勢を見せているため、法曹関係者からは有期刑に減刑される可能性も噂されている。
「私は麻原彰晃さんの一審での国選弁護人だった関係で、林受刑者にも法廷で尋問した経験があります。本来なら死刑求刑だったかもしれない人でしたが、無期求刑に落ち着いた。検察側も相当悩んだはずですが、組織犯罪摘発の端緒となった点を考慮して、無期求刑という結論を下したのです。その点を考えれば、恩赦によって有期刑に減刑するという判断があってもおかしくはないと思います」(小川原弁護士)
もう一つ見落とせないのが、恩赦の「政治利用」という側面だ。過去の恩赦では、公職選挙法違反者の公民権回復が多く実施されてきた。直近の93年の恩赦では、対象者の4分の3が公職選挙法の違反者だった。
さらに遡れば、政界の大物が関わった例も少なくない。56年の国連加盟恩赦では、造船疑獄に絡む佐藤栄作氏(のちに総理)の政治資金規正法違反が免訴となり、明治100年記念恩赦の直前には、公選法違反を最高裁で争っていた佐藤孝行氏(のちに自民党総務会長)が上告取り下げで刑を確定させ、恩赦を受けた。
逆に、87年にロッキード事件の控訴審で有罪判決を受けて最高裁に上告していた田中角栄氏は、刑が確定していなかったため、89年の恩赦を受け損ねている。
また、公選法違反ではないが、政府はすでに、国家公務員が過去に受けた懲戒処分の免除を行う検討を始めている。89年の恩赦でも行われ、退職後でも「名誉回復」の意味合いで適用された。同じ基準を踏襲すると、森友学園問題で話題となった佐川宣寿前国税庁長官の国家公務員法に基づく停職・減給の懲戒処分も免除される可能性がある。政治部記者がこう補足する。
「菅義偉官房長官は『ありえない』と否定しています。ただ、もともと恩赦を皇位継承時でなく秋に実施するのは、夏の参院選への影響を避ける狙いがある。実際、別の政府関係者が『選挙前に批判を受けるリスクはなるべく小さくしたい』と話しています。深読みすると、『選挙が終われば、世論の反発が予想される事案も対象にできる』と読み取れる。なにしろ佐川さんは、現政権を危機から守った〝立て役者〟ですからね」
亥年の今年は選挙イヤー。選挙違反に問われた現政権支持者らの「復権」を図ろうという動きが目につく年になるかもしれない。