収穫前のイチゴに除草剤を……。
愛知県豊橋市のイチゴ農家でセンセーショナルな事件が発覚したのは10月31日のことだった。クリスマスシーズンを前に収穫期を迎えるはずだったイチゴの苗は、何者かによって散布された除草剤によって無残に変色し、葉の先から枯れてしまっているものも……。
中京テレビの報道によれば、この農家で栽培されていたイチゴの苗は5000本弱。今回その10分の1が被害に遭い、損害額は35万円にのぼる。さらに驚くべきは、この農家が同様の被害を受けたのは今年だけで4回目。総被害額は1000万円以上におよぶという。
「人の手でこんなことするなんて考えられない。ここまでくるのにどれだけ手がかかってるか……」
被害にあったイチゴ農家の男性は中京テレビの取材にこう話していた。このニュースを受けて、ネット上では《農家さんの気持ちを考えるとテロ行為と言わざるをえない》《警察は全力で捜査して犯人に罪を償わせるべき》といった被害農家への同情や犯人への非難の声があがっている。
今回の事件を受けて、特に憤りをあらわにしているのが同業者だ。10年ほど前、脱サラ後にイチゴ農家を始めたという40代の男性はこう話す。
「これまでに除草剤を4度も撒かれたという点を考えると、かなり強い怨恨を感じますね。ネット上にはイチゴ農家は儲かるという記事で溢れていますが、それはあくまで一部の成功例に過ぎません。大体1パック400円〜500円前後で販売されているイチゴの原価は意外と高い。たとえば、イチゴ一粒作るコストを100と考えた場合、50は人件費と言われるほど手間がかかります。ナメクジなどの害虫被害も多く、また、頻繁に追肥しなければならないため、およそ20を肥料代などが占めるため利益はわずか30ほど。10トンの収穫をあげても、年収は400万円程度で、時給換算すると約700円。人件費がかかってしまうため、むやみに畑を広げるわけにもいかず、産業構造としてイチゴ農家は儲かりにくいのです」
こうした状況もさることながら、イチゴ農家の苦悩は他にもある。
「2000年代半ば以降、日本のイチゴの一部品種が韓国で無断栽培されるようになりました。それ以来、日本産イチゴの海外シェアは低下し、日本のイチゴ業界は220億円の損失を被ったといわれています。一方で、国内の需要も昨今のコロナの影響で出荷先の直売所、百貨店や果物専門店などで来客が急減して厳しい状況が続きました。また、昨年末豪雨に見舞われた千葉県のイチゴ農家のように、ひとたび大規模な災害が起きれば壊滅的な被害を受けてしまうのです」(社会部記者)
除草剤被害に品種のパクリ、自然災害、儲からない産業構造……。クリスマスシーズンに「イチゴ不足」なんて事態にならないよう祈るばかりだ。
(橋爪けいすけ)
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