戦国武将のグルメ事情「信長のおもてなしスイーツ」「秀吉が虎を食した理由」

 戦場での携帯性と保存性の高い非常食が、「ミリめし」として再び注目されている。歴史家の河合敦氏、戦国芸人・桐畑トール氏とともに戦国時代の食を振り返りたい。鉄砲をはじめ南蛮渡来の文物や文化、さらにキリスト教まで取り入れ、身分や家柄にとらわれず実力主義で家臣団を築いた革命児・織田信長だが、意外にも食生活は保守的だった!?

 織田信長は、宣教師から献上されたワインや金平糖、バナナなどを好んで食べたと伝えられている。桐畑氏もうなずきながら、

「映画やドラマではお約束のように椅子に座ってワイングラスを傾け、金平糖を部下に与えるみたいな描かれ方がありますね」

 しかし、河合氏は異を唱える。

「信長はワインを愛飲していたわけではないようです。イエズス会の宣教師で信長と親交のあったルイス・フロイスの『日本史』によると、信長は下戸で酒を飲まないとあるのです」

 ワインは戦国時代に日本に伝わり、当時のキリスト教の布教活動の武器として庶民にもふるまわれ、ワインの他に、金平糖やカステラ、ビスケットなども布教の武器としていたと、河合氏は強調するのだ。砂糖が乏しかった時代に、金平糖はかなり衝撃的な甘みだったことだろう。

「家康の親族である松平家忠という人が、信長が家康をもてなすために、みずから『ふりもみこがし』を作ったということを書いています。麦とそば粉を炒ってハチミツで練り固めた特製スイーツで、信長は実は甘党だったのではと思います」(河合氏)

 信長は、三好家を滅ぼしたあと、捕虜となった三好家の料理人を織田家の料理人にと家臣から進言された。料理を作らせ、その味を確かめてから決めると答えた信長。その料理人が初日に京都の公家風の薄味料理を出したところ、「こんな水くさいものが食えるか、首をはねてしまえ」と激怒。もう一度チャンスをいただきたいと懇願され、翌日には塩味の利いた田舎風に仕立てたところ、たいそう満足して家人に取りたてたというエピソードがある。上品で薄味の京風は、信長の口には合わなかったのだ。

 信長が激怒しやすかったのは、こうした塩分の摂りすぎで血圧が上がったことにも一因があるのではないだろうか。

 豊臣秀吉も、茶会や花見など、人を集めての宴会好きで、贅を極めた美食家のイメージがあるが、日常的には麦飯と漬物などの質素な食事を好んだようだ。

 武将の記録や軍記、巷談などを後世にまとめた『異説まちまち』には、貧乏時代に使いのついでに叔母さんの家に立ち寄って「麦飯を大椀に盛りて、水をかけて、立ちながら食ひて、急ぐゆへ、直ちに帰りたり。(中略)そのうまきこと、いま高位になりて美食すれども、そのときの麦飯のうまさには及ばず」と語ったことが記されている。これは少年時代や貧乏時代の「おふくろの味」が忘れられない昭和オヤジの感性とよく似ているようだ。

 だが、一方で秀吉は、極め付きの珍味、虎の肉も好物だった。桐畑氏の、

「虎はグルメというよりも、女好きの秀吉の場合、力強い虎にあやかって、今でいう『マカ』みたいに強精剤として食べていたと思いますけどね」という説には、河合氏も膝を叩いて同意する。

「朝鮮出兵の時に加藤清正らに虎狩りをさせて肉を送らせていたようです。虎は1日に千里を走ると言われる。虎の肉は強精剤のような効果があると信じられていました」

 加藤清正は、幼少から秀吉に仕えた猛将。朝鮮では、山狩りをして虎退治をし、のちの絵巻物や屏風絵には、槍一本で虎と対峙する清正の勇ましい姿が描かれているが、実際には鉄砲で仕留めたようだ。「虎食」について2人の議論は続く。

「虎肉は塩漬けにして秀吉に送っていたようですが、皮や頭蓋骨などは加藤自身が所持しており、今でも徳川美術館に現物が保管されています」(河合氏)

 桐畑氏は、「鳥の肉以外の獣の肉を食べなくなったのは江戸時代からですから、虎はすごく食べてみたいものだったと思います」

 秀吉の旺盛な行動力を支えたのは虎肉だった!?

河合敦(かわい・あつし)1965年、東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(日本史専攻)。多摩大学客員教授。早稲田大学非常勤講師。歴史作家・歴史研究家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。主な著書:『早わかり日本史』(日本実業出版社)、『大久保利通』(小社)、『繰り返す日本史 二千年を貫く五つの法則』(青春新書)など。

桐畑トール(きりはた・とーる)1972年、滋賀県生まれ。滋賀県立伊香高校卒業後、上京しお笑い芸人に。2005年、オフィス北野に移籍し、相方の無法松とお笑いコンビ「ほたるゲンジ」を結成。戦国マニアの芸人による戦国ライブなどを行う。「伊集院光とらじおと」(TBSラジオ)のリポーターとしてレギュラー出演中。現在、TAP(元オフィス北野)を退社しフリー。

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