今春、新型コロナウイルスの猛威が日本列島に吹き荒れ、最前線で奮闘する医療界同様、大きく揺れているのが「葬儀の現場」である。「コロナ死」か否かを問わず、物故者を丁重に弔うこと自体が難しくなってくる中で、混乱の極みにある当事者たちは果たしてどのようにふるまえばいいのか。
ひと言で表すならば、国民全体がまだ新型コロナウイルスを「ナメていた」3月下旬、その意識を一変させた出来事が国民的コメディアン、志村けん(享年70)の訃報だった。
感染後に入院したものの、そのまま意識が戻らず死去。急激すぎる容体の変化もさることながら、特に衝撃を受けたのは、遺族が最後の対面も果たせず、死亡後すぐに荼毘に付され、最後のお別れもできないまま遺骨となっての対面を余儀なくされた事実だろう。
都内葬儀業者の社員が言う。
「志村さんが亡くなる前から、葬儀業界では組合が作成した新型コロナ感染拡大防止のガイドラインが出されていました。遺族との面会がかなわないことも、それにのっとった対応だったはずです」
新型コロナを含む指定感染症による死亡者の遺体は、病院側がすぐさま遺体の消毒と、密封できる「非透過性納体袋」へ収容することを求められる。そのうえで病院、あるいは葬儀業者が棺に遺体を納め、場合によっては棺の目張りまでするのだという。
新型コロナに感染した後、重篤化すれば病院での面会が謝絶されることは広く知られているが、基本的に対面できるタイミングがないということは、5カ月たった今でも変わってはいない。
「都内の火葬場では、コロナで亡くなられた方の火葬の時間が最終の16時からと決められています。ご遺体は、時間が間に合えば病院から火葬場へ直行、翌日以降になる場合は、コロナ死亡者専用の安置所に運ばれます。この時間帯には他の死因で亡くなった方の火葬は行われません。立ち会うのは火葬場の職員のみで、我々も駐車場で車内待機させられます。それほど、感染の危険性を徹底的に排除しているんです」(葬儀業者社員)
4月下旬、女優の岡江久美子(享年63)が亡くなった際には、葬儀業者が遺骨を遺族に直接手渡しすることができず、玄関前に置かれたものを夫の大和田獏が取りに出るという仰天の対応が明るみに出た。二次的な感染への警戒は、どれほど行ってもやりすぎではない、という姿勢なのだ。
別の葬儀会社の関係者によれば、
「とてもシステマチックで、遺族感情を考えると胸が痛みます。ですが、特に3月、4月は業界全体が混乱期で、病院も葬儀業者も暗中模索の時期がずっと続いていました。感染者を出した、という風評被害は我々や病院にとって、商売上の『死刑宣告』に近いですからね。うちの会社でも、コロナとは関係ない『誤嚥性肺炎』など肺関連の病気で亡くなられた方に対して『本当にコロナじゃないの?』と疑う人もいましたし、ご遺族ですら『近所や仕事関係の人から、あそこの家からコロナが出た、と思われたくない』と、お通夜や葬儀を行わず、火葬のみというケースもありました」
このように、実際に感染していたかどうかはもはや関係なく、新型コロナが葬儀業界に与える影響は大きいのだ。