盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
高校球児たちにとっては最高の思い出になったと思う。今年のセンバツ大会の出場が決まっていた32校を甲子園球場に招待した「交流戦」が無事に終わった。勝っても負けても1試合だけやったけど、一生懸命プレーしていた。特に3年生は甲子園出場を目指し、入学以来、つらい練習に励んできた。思い描いていた形ではなかったやろうけど、1試合だけでもやらせてあげられてよかった。やっぱり、甲子園は甲子園やったと思う。
でも、他のクラブの生徒は「野球部だけうらやましい」と思っているかもしれんね。インターハイも早々に中止を急ぎすぎたんと違うかな。
「GoToキャンペーン」をやっているのに、部活の大会はアカンというのは筋が通っていない。吹奏楽部や応援団の子らも、甲子園でパフォーマンスしたかったやろな。
甲子園で毎年誕生するスターという面では、今年はしかたがないけど、インパクトは少なかった。明石商の中森や、中京大中京の高橋ら150キロ以上をマークする投手が注目されたけど、一般の人への知名度は広がっていない感じやな。一昨年の金足農業の吉田輝星みたいに、試合を重ねるごとに成長していく選手がファンの心をつかむ。また、そういう選手がプロでも活躍することで、日本球界は発展してきたからね。
その意味では1年目のヤクルト・奥川、中日・石川らはまだいいとしても、一昨年にビッグ4と言われてドラフト1位で入団した吉田(日本ハム)、根尾(中日)、藤原(ロッテ)、小園(広島)あたりは2年目で存在感を見せてほしい。根尾も1軍に上がってチャンスをもらったけど、15打数1安打でまた2軍に逆戻り。ドラフト1位というプレッシャーが強すぎるんかもしれんね。おもしろいのは、高校時代は無名の存在の巨人・戸郷、広島・羽月らが頭角を現し始めたこと。ドラフト7位入団の羽月は僕と同じように体の小さな選手やけど、プレースタイルを見ても、いかにもガッツがある。同じ内野手として、小園も相当な刺激を受けてるはずやで。
高卒でプロで長く飯を食べていける選手は、少なくとも3年目までには光るものを見せる。イチローも高卒3年目でシーズン210安打を記録してブレイクした。もっとも、イチローの場合は1年目からモノが違っていたんやけどね。ファームの試合を見に行くと、いつも簡単に2本ぐらいヒットを打つので、早く1軍に上げればいいのにと思っていた。2年目も1軍首脳陣の言うことを聞かずに2軍暮らし。「僕より監督のほうが早く辞めますから」という感じで肝も据わっていた。3年目に仰木監督が就任して、登録名を鈴木からイチローに変えてからの活躍は言うまでもない。
でも、この世界は「2軍慣れ」というものがある。2軍のレベルに体が染まってしまったら、抜け出すのは並大抵ではない。イチローも仰木監督との出会いがなかったら、違う野球人生を歩んでいたかもしれん。今年3年目のヤクルトの村上がいい例やけど、一流になる選手はプロの壁に当たっても、翌年には課題を克服してくる。昨年はホームランを36本も打ったけど、184三振で打率2割3分1厘。ところが今年は3割を大きく上回り、首位打者さえ狙える位置にいる。コロナ禍のシーズンでも、輝く選手はきっちり出てくるもんなんや。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。