実はこうした遺族の心情には、「墓問題」から解放された安堵感も潜んでいた。
「葬儀は選べる時代ですが、遺骨の問題はいろんな事情が重なり、悩むものです。そのために七回忌までの法要を設けています。合祀が目的ではなく、お骨の最後の行き場に迷っているのであれば、預かっている丸6年の間にゆっくり考えるという選択肢ができるからです。その結果、『お墓に入れることができるようになったので、遺骨を引き取ります』という連絡もあります」(釈真見氏)
「まごころ完結葬」を行っているワンズライフストーリーの池澤裕子代表は、自身も墓がなく、長い間、親の骨を納骨できなかった事情もあって、賛同した取次店のひとつだ。
「10年ほど葬儀事業に関わってきましたが、完結葬を紹介し始めてからは、さらにニーズの多様化を感じていますね。完結葬に何かをプラスしたり、一周忌、三回忌の法要だけ来てほしい、というような個別の問い合わせも多く、対応するようにしています。関連会社が広告代理店をやっているので、故人の資料を元に専門のライターが文章を作り、家族との思い出などを記した訃報『デジタル礼状 まごころ便り』も独自の試みで実施しています。メールやLINEで送ることができるので好評です」
まだ発足して2年足らずの完結葬だが、口コミなどでジワジワと広がり、現在は協力寺院も20以上に増えている。今後は京阪神だけでなく、直葬が多い東京をはじめ、全国の1市、1区にひとつ、完結葬を行う寺院を広げていきたいと、釈清浄氏は言う。
「これから先に亡くなるのは、後期高齢者の団塊の世代です。その喪主はロストジェネレーション世代と言われる、半分以上が非正規雇用で、月の収入が20万円前後の人になります。そうなれば100万円以上はおろか、30万円の葬儀代を出すことも難しいでしょう。気持ちはあるけど背に腹は代えられずできない、という悲しい事態になります。仏教は死んだ人のためにあるのではなく、生きている方がこれからも元気はつらつと生き抜いてもらうためにある。完結葬はこの先、新たなスタンダードになっていくでしょうね」
価格の安さだけではなく僧侶がいることにより、故人との別れをきちんと認識。「墓じまい」が話題になる昨今にあって、「その先の問題」まで解決できる。完結葬は、現代コロナ社会の世相に沿った、新葬儀なのではないか。
*「週刊アサヒ芸能」7月22日号より