「戸郷のせいだ…」高校野球のネット裏でスカウト陣の嘆き節が聞かれたワケ

「2020年甲子園 高校野球交流試合」も終わり、8月23日に都道府県別の独自大会も終了した。

 開閉会式はその試合を戦った2校だけ。例年なら白系の夏服で埋めつくされるはずのスタンドは、ガラ空き。ブラスバンドも、応援団の声援もナシ。観戦チケットも販売されていない。出場校の控え選手と家族、学校関係者が間隔を空けて座っていた。新型コロナウイルスの感染防止のためとはいえ、夏の風物詩・高校野球は、例年とは異なる光景ばかりが目立った。

「プロ野球スカウトの入場は許されました。甲子園では『1球団2名まで』という条件。事前にどのスカウトがくるのかを通達しなければなりませんでしたが…」(アマチュア野球担当記者)

 その高校球児のスカウティングでも、例年にはない言葉が囁かれていた。「戸郷のせいだ」である。

 巨人・戸郷翔征投手は高卒入団1年目の昨季、リーグ優勝を掛けた大一番の先発マウンドで一軍デビューした。今季も開幕ローテーション入りしており、高卒2年目での「開幕3連勝」は球団史上、33年ぶりの快挙だ。

 そんな戸郷の活躍がスカウトたちを混乱させていた。

「戸郷の同期入団選手は、夏の甲子園大会を席巻した吉田輝星(現日本ハム)、12球団が『素質ならナンバー1』と太鼓判を押した根尾昂(現中日)ですよ。現時点で、同年の高卒選手でいちばんの出世頭が戸郷です」(球界関係者)

 戸郷はドラフト6位でプロ入りした。2年生夏に甲子園大会に出場したが、3年生の最後の夏は地方大会で散っている。巨人スカウトも今日の活躍を確信していたとは思えないが、下位指名の投手がプロ2年目でその才能を開花させたとなれば、高校生のスカウティング基準を改めなければならない。

「戸郷は『エースになる』という強い思いを持って、巨人のユニフォームを着ました。本人の努力がいちばんですが、強いスピリットを持っているのかどうかも調査しなければなりません」(前出・関係者)

 試合中の球児の表情やベンチでの仕種にも熱視線が向けられているようだ。今さらだが、このコロナ禍で活動そのものができなかった高校も多い。球児に関する情報が少ないだけに、戸郷のうれしい“大化け”がスカウト現場に少なからず混乱を招いているようだ。

(スポーツライター・飯山満)

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