北海道で飼い犬がヒグマの餌食に!それでも発砲できない「狩猟免許」の死角

 北海道日高地方の新ひだか町で、屋外で飼育されていた犬が忽然と姿を消している。しも次々と……。そんな不可解な“失踪事件”を北海道文化放送が伝えたのは8月18日のことだった。

 最初の被害が報告されたのは15日、現場は新ひだか町にあるホテルで、敷地内で飼っていた中型犬が、近くの林の中で死んでいるのが見つかり、その死骸には大型動物に食べられたような跡があったという。さらに翌16日、その現場から約1キロ先の住宅の敷地内で、飼い主が外飼いの中型犬がいないことに気付き敷地内を捜索。すると、クマの足跡と血痕、さらに林の中に引きずられたような跡を発見したという。北海道在住のジャーナリストが語る。

「日高地方に限らず、道内ではここ数年、ヒグマの目撃が相次いでいて、7月末には、砂川市で体長2メートル、体重270キロの雄のヒグマが箱わなで捕獲されました。このヒグマは連日、付近の養鶏場に現れ、倉庫の扉を壊したり敷地内に置いてあった餌の麦を荒らしたりしていたのですが、体重300キロ近い巨体ですからね。遭遇して襲われたら、人間などひとたまりもない。しかも、熊は大変頭のいい動物なので、人間の肉の味を憶えたら、それが忘れられなくなる。今はたまたま人間が鉢合わせしていないだけのこと。つまり、北海道は場所を選ばず、すべてがヒグマ出没エリアと言っても過言ではないんです」

 ところが、そんな危険地帯にもかかわらず、道内にはヒグマを発見しても、やたらに発砲できないばかりか、驚くことに発砲したら狩猟免許を取り上げられてしまう、という信じられないようなケースもあるのだという。

「実は、2018年8月、猟友会員の男性が砂川市から依頼を受け、市内に出没していたヒグマ1頭を猟銃で駆除したことがあったんです。ところが、この男性に対し、公安委員会は安全確認が不十分なまま発砲したとして、なんと免許取り消しの処分を下したんです。もちろん、男性にとっては寝耳に水で、とてもじゃないが承服できる話ではない。男性は『役所からも振興局からもきちんと許可が出ているし、鳥獣保護法違反にならない場所だから、問題ないと説明を受けたから発砲した。こういう状況で鉄砲を取り上げられたら、ハンターは安易には発砲できなくなる』と、処分を不当として裁判を起こし、現在も係争中です。そんな出来事があって以来、道内の猟友会員たちは、ヒグマを発見しても即発砲とはいかない状況になってしまったんです」(前出のジャーナリスト)

 とはいえ現実問題、作物や家畜、さらには飼い犬への被害が報告され、このままエスカレートすれば、人間に危害が及ぶことは時間の問題といえる。それなのに、発砲すれば免許取り消しというのでは、ヒグマには安易に手が出せないということになる。

「鳥獣保護法は夜間や住宅街での発砲を禁じているため、結局ヒグマが山に入ったところで駆除することになり、下手をすると出没から2〜3週間経ってから、ということも少なくない。しかも、ハンターの高齢化と後継者不足も大きな課題で、ヒグマと渡り合える経験を持つハンターはどんどん減っていくことは必至。このまま手をこまねいていれば、必ず人間の被害が出るはず。人が死んで初めて『じゃあ、こうしましょう』では、何のための行政なのかわかりませんよ」(前出・ジャーナリスト)

 札幌市などでは、ヒグマを人里に出てこさせないため、農地周りを囲う電気柵の設置に最大2万円まで補助する制度を始めたが、これとて効果については疑問の声が大きい。

 これら一連の報道を受けSNS上では、

《住民を避難させてからライフルを使えばいいだけなのに…。制服警官に支給されている拳銃なんかで仕留められない事くらいわかるだろう?》《まぁ、免許取消した公安委員会の方々に持ち回りで頑張ってもらうしかないね》《予算減額した地方議員と、免許取り消した公安。責任持って命懸けでクマに立ち向かえ》と厳しいコメントが相次ぐ。

 たしかに、市街地での銃の使用には厳しい制限が必要だろう。ただ、発砲のリスクを恐れるあまり、ヒグマの活動範囲が住宅地に及んでいるようでは、いったいなんのための「銃猟免許制度」なのかわからない。もしも犠牲者が出るようなことになれば、責任は行政にあると言わざるを得ない。

(灯倫太郎)

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